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慣れない手つきで包帯を巻き終わって彼女の顔を見上げると、雪の中にいた時よりもっと真っ赤になってる。
「ご、ごめん、痛かった?」
「いえ……(恥ずかしいです……)」
消え入るように小さな声で、彼女は何か呟いた。
変な雰囲気を切り替えなきゃ。
「待ってて。お茶入れるから」
逃げるように家の奥に行って、何かないかと探す。
お、あったあった。
戸棚に置いてあった羊羹を見つけ、大急ぎで茶を入れて玄関に戻る。
「はい、どうぞ。これ食べたら、シノさんの家に行ってみようか」
「ありがとうございます。色々よくしていただいて。あ、私は楓って言います。山田楓」
楓ちゃんか。うん。似合ってる!
「俺は夏彦。えっと、伏見夏彦です」
「夏彦さんって。ふふふ。ぴったりの名前ですね」
「えー、古臭くって嫌なんだけど」
「そんなことないよ!似合ってる。夏がつくと、元気そうだから。ほら、さっきも雪の中で遊んでたし」
「……やっぱり見てたんじゃん」
ようやくの自己紹介のあと、羊羹を食べながらいろんな話をした。少しだけ楓ちゃんのことも分かった。高校生かと思ったら、実は大学生で、来年の春には下の町で就職も決まってるらしい。
今は他県に住んでて、こっちにはなかなか帰ってこれないんだけど、帰省のついでに形見を取りに来たんだって。
「お葬式の時に、おばあちゃんが描いた私の絵があるって聞いたの。いつでも入って持っていっていいよって言われたから来たんだけど、雪がこんなに大変とは……」
「雪の日は気をつけた方がいいよ。俺も走り回ってて、うっかりズボッて溝にはまったことあるもん」
「ふふふ、楽しそう」
それから、楓ちゃんと俺は、なんと同じ誕生日だと分かった!
一月十日。
「夏彦なのに……」
「楓なのに……あはは」
「変よね。ふふ。私はお父さんが、この漢字を使いたかったからだって」
「俺は生まれた時から元気そうだったから、冬より夏だなって」
「あ、分かる!」
「分かるのかよっ!」
「あはは。うんうん、分かるよ、夏彦くん、元気だもの」
すっかり打ち解けてニコニコと笑う彼女には、もう雪女と見間違えるような雰囲気はない。俺も楽しくなって、自分のことをいっぱい話した。
ずっとフラフラしてたけど、仕事が見つかったこと。三月から一人暮らしを始めること。
下の町に今度できるタワーマンションに住むんだっていったら、彼女は目をまん丸にして驚いていた。
いや、いいとこのおぼっちゃまじゃないから。仕事の関係でね。しかもタワーマンションなのに上階じゃなくて、一階の、ちっちゃな家なんだよ。
え、俺の方が年上だって!高校生に見える言うな!
いや、フラフラしてたし、走り回って遊んでたけど。
バイトじゃないよ、正採用。
正 採 用!
自分のことをこんなに話したのは、初めてかもしんない。
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