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4
ゆっくり休んだから、そろそろシノさんの家に行こうか。そう言って彼女の手をとった。びっくりするくらい冷たかったから、その時初めて、寒い玄関で長話しちゃった事に気付いた。こっそり反省して胸の内でいっぱい謝りながら、その手を温めるようにして、外に出る。
ズボッ、ズボッ、ズボッ。雪の中を歩くのは、寒いけど楽しい。
楓ちゃんがこけないように、溝にはまらないようにいつもより気をつけて歩く。
村の中には家が十軒以上も残っているが、人が住んでいる家は少ない。シノさんの家も、ついに空き家になってしまった。
滅多に人と出会うことのない通りを抜けて、田んぼの横のあぜ道を通る。数段の階段を上がって、今度は坂道を下りて、それからまた坂を上がってようやくシノさんの家に着く。
ついこの前まで人が住んでいた家は、まだ生活感が残っていて、庭の池に泳ぐ鯉も、寒いのにいつも通り元気だ。
「じゃあ、俺はここで待ってるから、行っておいで」
「ありがとう!」
池の端にしゃがんで鯉を見ながら、楓ちゃんが出てくるのを待つ。この家は村でも一番高いところにあるけど、さらにその上に段々畑があって、そこから眺める村の景色は子供の頃から好きだった。ジイさんは、昔はこの村にも大勢の人が住んでたんだと言う。でもよくよく聞いたら、一番たくさん住んでた頃だって100人もいなかった。だからずっとずっと、この村はこの景色のままだったんだろうと思う。
ずっと住んでるわけじゃないけど、ここは俺にとって大事な故郷のひとつで、楓ちゃんにとっても、きっとそう。
しばらくして、楓ちゃんは大事そうに大きな手提げバッグを持って出てきた。
シノさんが描いた楓ちゃんの絵は、プクプクしたほっぺたの、かわいい赤ちゃんだった。
「親戚のみんなが、この絵は楓そのものだなって言って笑うのよ」
「うん、分かる」
「えー」
不満そうに口を尖らせる彼女はそれでもかわいくて、俺は楽しくなって飛び跳ねたい気持ちを抑えるのが大変だった。帰り道もいろいろ話しながら歩く。もっと話したいのに、そんな時に限ってあっという間に着いちゃうのは何故だろう。
楓ちゃんを村の入り口まで案内して、そこでお別れした。本当は下のバス停までついて行ってあげたいけど、今日は無理なので、無事を祈って見送る。
一生懸命、手を振った。
また会えるかな。
俺のヒント、いっぱい伝えたんだ。
見つけてくれるといいなあ。
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