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平成の人
令和元年。その年ももうすぐ終わる。一人で飲みに入った居酒屋のテーブルはどこもかしこも忘年会のように賑わっていた。
「昭和生まれですからー」
年齢確認をされた男性が免許証を店員に見せつつ笑顔を見せていた。店員は苦笑いをしながら失礼しましたと返してオーダーを取り始めた。
カウンターで一人黒ビールを飲んでいた俺は小さく舌打ちをする。昭和生まれとか平成生まれとか、何の値打ちがあるというんだ。昭和生まれだから昭和の時代が良かったとか、平成生まれだから若いんですとか、自らそんなレッテル触れ回ったって大切なものを守れなきゃ何も意味がないんだよ。
渋い顔をしていたのだろう。カウンターでカクテルを作る店員が、煩くてすいませんねと笑いかけてきた。
「いや。謝らなくてもいいよ。繁盛してくれたほうが俺も常連でいられるから」
「そう言ってもらえるとありがたいです。居酒屋でも隣の席が煩いってクレームは多いですから。静かにしてくださいって言ってもすぐに騒いじゃうし」
「そんな世の中なんだよね」
つい己の首もとに手を伸ばす。糸のほつれが目立つマフラー。出来れば一生使いたいと願ったマフラーはもうボロボロだ。手編みなんて時代じゃない。これを受け取ったとき、そんな言葉を吐いた。後悔の多い毎日で人生で一番後悔している言葉。
このマフラーが俺の平成を物語っている。
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