お嬢様

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 焦った伯爵のお開きの号令により、ロウウェルは無事伯爵令嬢の護衛役を得て絶賛護衛中の身となっていた。 「何だ、妙に尻の座りが悪そうだな」 「本当にこの家の教育はどうなってんだ?  お嬢様の使う言葉とは思えん」  通されたアレマの私室は簡素と言うよりもシンプルで、屋敷全体に言える事だったが物が少なく機能的に配置されている。一つ一つの品の高級さを何とは無しに感じ取って、ロウウェルはなるべく物に触れないように心掛けていた。 「私はこの家では異質だからな。貴殿の無礼も大目に見る。私の令嬢らしからぬ振る舞いも水に流せ。」 「異質ねえ……」  _____まぁ!なんて凛々しい…  寒気を抑えるように身震いするロウウェルに、アレマは興味津々で迫る。  護衛であるロウウェルは何故かアレマの私室中央に置かれたリビングテーブルとセットになった2人掛ソファに、並んで座らされていた。そう「られていた」 「余り寄らないでくれないか。俺はまだこの街を追い出されたくないんでね」  口布を元の位置に戻し、表情が隠れたロウウェルの嫌そうな雰囲気を察して、アレマは肩を竦めながら身を引いた。 「ああ、承知しているとも。  君は兵役を逃れる為に傭兵をやっているんだろう」  フードを下ろし露わになっているロウウェルの頭頂部の耳がピクリと震える。 「何だと?」  剣呑な雰囲気に、アレマは内心息を飲むが勝気に微笑んで見せる。 「君のように若く、戦闘力の十分な男が後方支援である護衛任務メインで、傭兵だと言うのは妙だ。  少し考えれば誰にでもわかる事だよ。今までその部分を利用されてこなかったのか?」 「随分と買われているようだが、俺の戦闘力は大したことはない。  狼人の五感に頼った護衛をするのが能力的に向いてるってだけだ」 「ククト・バンの一太刀を受け止めた事なら知っている。  隠し立ては無意味だよ」  どこまで知ってる?  どう言えばこの男を操れる?  それぞれの思惑が交錯する緊張感に、どちらも息が詰まりそうだった。  ロウウェルにも、アレマにも、抱えた事情がある。  並んで座らされたソファの上で、ロウウェルは緊張感云々よりも他のことが気になってきた。  どれ程口布が消臭効果のある布で織られていようが、限りあるソファの面積ギリギリまで身を引こうが、アレマの柔らかい香りや接触を避け切ることはできない。  そう、しないのではない。  例え誘惑があろうと、ロウウェルは理性の保つ限り全力で避けていた。 「……とりあえず、頼むから離れてくれ」  ロウウェルは案外ウブな男なのだ。  
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