お嬢様

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「……生娘のような反応をするな、私の方が赤面しそうだ」 「さっきまでと顔色が全く変わらないなと突っ込んだ方がいいのか?」  仕方なさそうに、アレマはやっとテーブルを挟んで正面のソファに座り直した。  そのタイミングで扉がノックされる。 「お茶をお持ちしました」  ロウウェルの尻尾の毛が僅かに逆立ったのを、アレマは目敏く見つけて内心ほくそ笑む。  可愛いところもあるじゃないか。大方先程の母上との邂逅を思い出しているのだろう。そう予想を付けながら廊下へ声を掛けた。 「ああ、入れ」  メイドが恭しい仕草でワゴンを押して入室する。一通りの茶請けを並べ終えると、扉の前で退室の一礼をする。 「ありがとう」  鷹揚に声を掛けるアレマの態度は人を使い慣れた育ちを感じさせた。 「さて、もうこれで君の気掛かりは取り除けただろうし、私もゆっくりと紅茶を嗜みながら話ができる。  どこから説明したらいいかな?」  ゆったりと脚を組むアレマに、ロウウェルは睥睨するように顎をツンと上向けて腕組みをする。  どちらもまるで縄張り争いをする動物のようだと、誰かが見れば言うだろう。 「言うまでもないが、最初からだ。  俺の事をどこからどこまで知ってんのか、その情報ルートも大人しく白状しておくんだな。何故俺なのか、はもういい。狼人の魔力感知が目的なのは分かった。  騎士団を使えない事情があると言っていたがその事情とやらも、それに伯爵と話をする前に『俺のため』に護衛を請けろと言ったな。随分と含みがあるが」 「君は寡黙な方かと思ったんだが、どうやらそうではないようだ。  先ず答えられる質問から」  紅茶を一口含んで嚥下するアレマの様子は、淑女そのものだった。  風のような、水のような仕草で指先は動き、紅茶は緩やかな波紋さえ広がらぬ安定感で口元へ運ばれる。きっちりと上まで留められたワイシャツから覗く白い喉元を、色の付いた赤い液体が流れていく様が透けて見えるようだ。  自分がジッと見入っていたことに気付いて、ロウウェルは耳だけを素早く震わせて視線を無理矢理剥がした。  アレマはロウウェルの視線に気付いているのかいないのか、スッと音もなくカップをソーサーに戻す。 「君の情報を手に入れたのは街の情報屋だよ。統合所も相手にしているようだったからな、期待はしていたが随分と詳しいようだったぞ」  街の情報屋は金を積めば基本情報を売るが、普段から懇意にしている顧客の情報は滅多に売らない。信用と自信の立場を守る為だ。  ロウウェルはこの街の中でも腕利きの傭兵で、一定の情報以上を扱う情報屋は全て押さえている。その中でもロウウェルの予想が付かない相手が1人いた。 「……夢幻のサファレか」
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