お嬢様

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「直ぐにその名が出てくる辺り、余り信頼関係は築けていないようだね」  クスクスと片手を口元で彷徨かせながらアレマは笑う。 「そう、お察しの通り『夢幻のサファレ』と言う男から買った情報だ。随分と吹っ掛けられた」  チラリとロウウェルを威圧するアレマだが、ロウウェルは素知らぬふりをして話を進める。 「それで、どこまでの情報を買った」 「それは此方が買い取った情報だ。当人と言えど、情報には価値がある」  舌打ちしそうになるロウウェルはその衝動を忍耐で飲み下す。この女の思う壺に嵌ってたまるかという意地で。 「信頼関係に罅を入れるより、その情報を与えて安心と信頼を与える方が、今後の価値になると思うが。お貴族様の価値観ではやはり目に見える物でなければ無価値なのか?」 「ふふ……  初心な一面は此方を油断させるための演技かな?  君との掛け合いは楽しいね」  満足そうなアレマに、ロウウェルは内心悪態を吐きたい気分だった。あくまで内心に留める。 「信頼を得る為なら此方の持つカードも出し惜しみはないさ。  先程言った以上の情報は特にないけどね。  この街の傭兵資格を有する者は、兵役を逃れることができる。尚、統合所の定めた基準を満たし、正式に資格を与えられた者を対象とする。他の土地にはない変わった条例が目当てで傭兵をしている事。  国内でも最強の位置に近い、剛強のククト・バンの一太刀を短剣で受け切り、且つ無傷だった事。  街一の宿酒場、ミールイートの常連である事。  ククト・バンとその幼馴染の女性と交友があり、それ以外では基本的に一匹狼だと聞いただけだよ。何も不都合はないだろう?」  そういうアレマは上機嫌で、切るカード等ハナからなかったのだとロウウェルが気づく頃には、全てを言い切っていた。  徒労感に襲われながら、ロウウェルは次を促す。 「……それで、騎士団は何で使えねえんだ」 「首を突っ込みたいと言うなら話すが、君は面倒を回避したい男なんじゃないのか?」 「仕事はする。護衛対象を守るのに必要な情報だというなら、それは開示して貰う」  指先を交互に絡めて手を組んだアレマはニヤリとする。 「では、話すことにしよう。  しかしこれを聞くと、君は望まない事態に首を突っ込む事になるがいいのかい?」  ロウウェルは一瞬悩むが、護衛対象の死亡や負傷があると傭兵としての内申点が下がる。内申点が低い者は統合所の状況や、駆り出す人員の不足があればただの冒険者へと戻され、有事の際のには兵役を免れる事ができなくなる。内申点は本人でさえ知り得る情報ではないが、大凡の状況から考えるとロウウェルの傭兵内申点は依頼の不履行がない為、この街で一番高い筈だ。  しかし内申点の採点法は明かされていないし、護衛対象はこの街の領主の娘。この護衛が失敗した場合の点数がいくつ減るか不明な上、話を聞く限り人間の護衛では手に余る。 「……構わない。  全力で守るだけだ」 「……中々凄い台詞だねぇ。  街の女性に言ってあげれば喜んで宿まで付いて来そうだ」  目を瞬いたかと思うと、次の台詞が下世話だった。 「余り品のない事を言うなよ、お嬢様」
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