お嬢様

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「これは失礼」  脚を組み替えたアレマは、やっと話始める。 「統合戦争が終結して18年、ここにきてキナ臭い動いきがあってね。暗躍しているのが何処かは分からないが、人間同士の勢力争いは表面上やっと形を潜めた。今回の暗躍が考えられるのは隣接した他領だが、それも確定はしていない。  周辺の領地を探っていると、私と同じような状況に置かれている令嬢があと2人いる事がわかった」 「それで?」 「どの令嬢も魔術が得意な令嬢で、片や子爵、片や男爵、知る限りではもうひと方準男爵令嬢が居るが、どうやらそちらでは同様の被害はないらしい。  詰まるところ、貴族の令嬢が狙われている訳だ。ああ、準男爵令嬢は貴族ではなく……」  はたと気づいたアレマが捕捉しようとするが、ロウウェルは片手を軽く挙げて制する。 「そんくらいは知ってる。準男爵の爵位が適用されるのは当主だけで、その血縁や家族は平民の扱いだ」  アレマは頷いて続きを話す。 「話が早くて助かる。  そう言う事で、これは貴族令嬢が対象となった事件だと言う事になる」 「わかんねえな。それと騎士団が使えないって言う事と、どう関係がある?」 「常ならば護衛を増やして原因究明にあたればいいが、狙われていた子爵令嬢が亡くなった」  ロウウェルの耳がピクリと動く。 「すると当のサマンディッド子爵家からうちに使者が送られてきた」  ここで紅茶に手を伸ばしてアレマは一息つく。   「内容は」  促すロウウェルの言葉に従って、アレマは息を吸い込む。 「『貴家に開戦の意思あらば、当方にも用意がある』」 「そりゃ……」  思わず眉を潜めたロウウェルを見て、アレマは己の言わんとしている事が正しく伝わっている事を察し頷いた。   「そう、宣戦布告だ。  大戦である統合戦争が終結して18年。淘汰されたのは貴殿ら人外と我々が呼ぶ一族だけじゃない。人間も、水面化で謀として勢力争いはしてきた。それでも武力での戦争は起こってなかったんだ。偏にそんな事をしている余裕がなかっただけなんだが」  肩を竦めるアレマだが、人外と呼ばれる種族であるロウウェルの心中は穏やかではない。ロウウェルの歳は29。つまり大戦の経験者であり、その敗者側だ。当時の事は思い出したくもない犠牲を多く払った。 「人間同士の小競り合いなんぞ知った事か」  吐き捨てるようにそう呟くロウウェルの心中は、アレマには到底推し量れない。アレマの歳は17。大戦の経験はなく、惨状も知らない。唯一知っているのは、幼い頃は人外と呼ばれる獣人達が奴隷として働いていた事。当然不満は爆発し、再び大戦がその火蓋を切ろうとしていた時<教会>の聖女が自らの命を犠牲に仲裁を買って出、それぞれの種族は奴隷化の廃止と不干渉を条件として引き下がったと言う事。第二次統合戦争の回避、それが現在の<教会>の権力の源だ。 「君はこの人間の治める土地で暮らしており、その法を遵守しなきゃいけない。狼人とは掟を何よりも大事にする者たちだと聞く。人間の法に従い、その法に生き、選択をした上で君は私を守る依頼を受けた」  じっとロウウェルを見つめるアレマの真意を探ろうと言うのか、ロウウェルも目を逸らさない。  先に緊張を緩めたのはアレマだった。和らいだ目元に、下がった眉。緩く弧を描く口元。困ったように、アレマは笑った。 「全力で、守ってくれるんだろう?」  自信に満ち溢れ、自立した食えない人物ではなく、何処か弱々しささえ感じる笑みを浮かべた少女の言葉は、先程ロウウェル自身が口にした言葉だ。  過去の事は過去の事で、アレマには関係がない。命さえも失うかもしれない、ただの少女だ。
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