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傭兵・グウェン
大の男が2人して、宿屋の食堂でテーブルに突っ伏している。
テーブルに並べられた湯気が立っていた食事も、ジョッキに注がれていた発泡酒も、見るも無惨に散乱していた。テーブルの下に残飯の如く転がっていたり、はたまた男共の顔面のクッション代わりになっていたりと状態は様々だった。
「ちょっと、いつまでそうしてんのよ。
邪魔なんだけど。
金にならないアンタらより、ちゃんとお金を払ってくれるお客さんに座って貰いたいんですけどね」
誰のせいでこうなっているのか。
本人達だけでなく、食堂で食事を摂っていた客達はアリアナの呟きを聞いて心が一つになった。
賢明にも内心だけで頷くに留めているが、アリアナは鋭いのだ。ギロリとした視線を巡らせると、皆素知らぬふりで歓談と食事を再開する。
「……お前、ほんとに嫁の貰い手がなくなるぞ」
まだダメージ回復醒めやらぬククトが顔を横向けてそう言うと、アリアナは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「馬鹿言わないでよ。
そん時はククトが貰ってくれる約束でしょ」
ほんの少しだけ頬を染めるアリアナ。
ガバリと顔面にくっ付いた残飯を撒き散らしながら上体を起こしたククトに、視線だけを向けていたロウウェルとアリアナは異口同音で言葉を溢した。
「「汚な…」」
「俺の感動を返せよお前ら……」
勢いで立ち上がろうと腰を浮かせていたククトは、肩を落としながら腰を落ち着ける。
アリアナは客に呼ばれて去って行った。残飯を残したまま。
「お前らのコントはいいんだよ。
そんで、一体なんの用なんだ」
むくりと起き上がったロウウェルは、食べ物で汚れてしまった口布を仕方なく取り払うと、目の前のククトへ本題を切り出す。
「なんだ、口布取るのか」
露わになった口元には、特徴的な刺青が彫られていた。狼なのだろう。勇しく鬨の声を上げるような、仰向いて大地を踏み締める狼が彫られていた。
ロウウェルはこの刺青を気にして、いつも口布を着けている。
「誰も気にしねえって言ったのはお前だろ。
こんな食べ物がベットリ付いてたんじゃ、鼻が利かねぇよ」
それもそうか。と納得すると、ククトは器用に残飯を避けてテーブルに身を乗り出す。
「で、ここに呼んだのは依頼の話だよ。い、ら、い」
強調するように単語を区切るククトに、ロウウェルは疑問をぶつけた。
「なんだ、勿体つけるような話でもないじゃないか。
俺に頼んで来るんだから、どうせ護衛だろ?」
「ま、そうだな。
お前さんの得意分野だろ?傭兵さんよ」
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