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この世にあるあらゆる職業の中で、危険度が高く人口が多いのは間違い無く冒険者だった。モンスターや幻獣を狩って生計を立てる戦闘職なのだから、危険度が高いのは当たり前だ。老いによる定年は、平均寿命の10年前。つまり60年から50年だ。
その定年の20年程度前から第一線を退き、研究職や解体業などの後方支援に移る。
その後方支援の依頼の中に、護衛依頼がある。拘束時間が長い為身入りはいいのだが、護衛を雇うような身分の相手への礼儀作法を心得ている冒険者は多くない。40年近く人生経験があれば、嫌でも礼儀作法を覚えそうなものだが、反面40年も荒くれ者の世界に浸かるととんでもない非常識の塊が出来上がったりもする。
要は幅広い立場の相手との接触経験があるかないかという事だが、護衛依頼はどちらにしろ若い世代には人気がない。
つまらないのだ。
「それで、今回はどんなでかい欠伸が出る依頼なんだ」
護衛も熟す冒険者、または護衛を主とする冒険者登録を済ませている者を、傭兵と呼ぶのだ。
「お前さ、一応貴族の護衛した事あったろ?」
声を潜めるように身を寄せてくるククトが汚いので、その分ロウウェルは身を引く。
「……お前さ」
「十分聴こえる。お前より耳はいい」
狼人の聴力では、この距離でも十分過ぎるくらいだ。
「ああはいはい。
そんで、貴族の護衛」
肩を竦めながら普通に座り直したククトは、手近にあったお絞りを使って顔を拭い始める。流石に気になったようだ。
「あるけど、あれは准男爵のお嬢さんだったからな。詳しくは貴族じゃねえ」
准男爵は当主のみが貴族として認められる。当主の家族は一般階級と同じだ。
「それでもお貴族様相手に護衛したんだろ」
「まあな。
それで?今回は正真正銘お貴族様だってか?」
お絞りで顔中を拭っていたククトはお絞りをくしゃりと握り、ニヤリと笑う。
「そうだよ。そんで、その相手よ問題は。
誰だと思う?」
これだけニヤニヤしているという事は、評判が頗る悪い相手としか考えられない。
「……ロミエールか?
あの豚の側にずっと居ろってんならごめんだね。唾液だの汗だの、風呂に入ってない訳もなし。それでも臭えんだよあのデブ」
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