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「__… 異達。」
殆ど空気としてしか発せられない声を出した。
まるで突然起きた不運を理解出来ず死んでいく動物のように、
一粒涙が異達の頬を伝う。
そんな姿を綺麗と思ってしまうこの感情に
自分の脳髄をぶち抜いてやりたかった。
自分の知らないところで
「…異達」
もう1度名前を呼ぶ。起きなくてもいい、
声は存外はっきりと出た。
濡れた頬を撫でた。寒がりの此奴の肌は嫌に冷たくて、そうでないとわかっていても不安が煽られる。
異達の過去は言うまでもなく悲惨だった
俺とは比にならないくらいに。
ごめんな、傍に居てやれなくて。
ごめんな、
異達。
そう小さな声で呟きつつ、自分の目からも溢れた涙を堪えるようにして目を擦る。
一日中一緒に居られる日なんて限られていて、
此奴の不安を、俺は支えきれるだろうか
もしかしたらもっと真っ当で、おおらかな誰かの方が異達にはいいのかもしれない。
そんなこととっくに知っているし、わかっている
それでも、
「…好きだ、異達」
夢半ばのその声に、握った手が少しだけ動いた気がした
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