見返り美人

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見返り美人

 通勤途中、電車の中で見掛けた素敵な女性。  長身でモデルのような細身のスタイル。  黒髪の艶やかなロングストレートヘア。  キラキラのラインストーンを施したネイル。  マーメイド型のスカートにフリルのブラウス姿は華美過ぎず、上品さが滲み出ている。  電車の出入口の手摺に掴まって立ち、こちらから見えるのは後ろ姿のみ。顔は見えない。  でも。  きっと素敵な人に違いない。  あの人に声を掛けねば!  だが……。  見知らぬ人間に急に声を掛けられたら……気味悪がられるだろうか。  いや、でもしかし……。  他の人に声を掛けられる前に声掛けないと。  ……不審者扱いされたらどうしよう。  でも、このままでは……。 「次は××駅ー、××駅。○○線にお乗り換えの方は……」  車内アナウンスが次の停車駅に近付いていることを知らせる。  早く声を掛けないと! 「あ、あの~……」  プシュー。  扉が開く。  彼女は駅のホームへ降り立つと、颯爽と歩き始めた。  その姿はまるで百合の花。  素敵だからこそ、声を掛けたかったのに……。  軽快な音楽とともに扉が閉まる。  間に合わなかった……。  無情にも走り出す電車。  遠ざかる彼女の後ろ姿を見送りながら、言えなかった言葉をぼそっと呟く。 「クリーニングのタグがついてますよ……」  トレンチコートの襟首からクリーニングのタグをちらちら覗かせながら、彼女は歩いていった。
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