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ポーチに飛び込み『101高瀬 真己』の表札の前で立ち止まると、彼は素直に鍵を取り出してドアを開けた。
「……じゃあね」
うつむいて踵を返した途端、玄関に引き込まれて。
「行かないで」
「…………」
「まだ、もう少し……」
バタンと閉まった扉。部屋の中は窓から差し込む外灯の灯りだけが滲んでいる。
「真己、私は……」
「弥夜子さんが好きだから、行かないで」
出会ってたった数週間。まだ私は自分の事を何も話してないのに。
「もう少しだけで、いいです」
なぜ私は苦しそうな真己の頬に手を伸ばしてしまうのか。
「弥夜子さ……」
なぜ引き寄せて、キスをしてしまうのだろう。
「ごめんね……真己」
重ねた唇は意外にも冷たくはなくて、寄り添った身体も濡れたコートを脱げば温かい――。
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