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「――弥夜子さん……」
部屋の中は整然と片付けられていて、テーブルとテレビ、窓際のベッドだけ。
「キョロキョロしないで。……私を見て」
戸惑ったように泳いでいた視線がそろそろと私に戻って来る。
「みて、いいの?」
「うん。私だけ見るの」
「さわってもいい?」
「触って……いっぱい」
真己の掌が両の膨らみに触れると、私の口から小さな悲鳴が漏れた。
「いたい?」
「痛くない……」
「だって、いたそうな顔」
不安げに眉尻を下げる真己に愛しさが溢れ出る。
「違うの。痛そうに見えたかもしれないけど……幸せなの」
「そうなの?」
「真己は、嫌じゃない?」
「ぼくは、……気持ちいい」
微笑んで、私はゆっくりと彼を包み込んでいった。
「真己はピーター・パンなんかじゃない。ちゃんと仕事も出来て、自分の身の回りの事もできて」
シャーベットのような霙が窓を叩く小さなアパートで。
「ちゃんと好きな女を幸せにできてる……」
私たちは不器用に、想いを重ね合った。
(覚えておいて。今夜の、今の私を──)
──朝、目を覚ますと部屋は窓から差し込む真っ白な光で満ちていた。
(雪……? 昨夜、霙が雪に)
隣に目をやると、真己がベッドに起き上って窓の外を見ている。肌も髪も、伏せたまつ毛さえも眩しい雪の色に染めあげて。
(朝陽はいつもこの人に優しい……)
それはきっと、この先もずっと。
「真己」
「あ、おはようご……」
私は寝転んだまま、両手を伸ばして彼を引き寄せた。
「……やっぱりネバーランドの住人じゃない」
あなたは、今居るメインランドに愛されてるよ……。
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