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※※※
また眠ってしまった真己を残し、そっとアパートを出た。
(帰ろう……少し準備をしておかないと)
雪で覆われたアスファルトを一歩踏み出した時、角を曲がって来た人と目が合って互いに立ちすくんだ。
「え……弥夜子さん?」
「優ちゃ……!」
彼女が私と真己の部屋のドアを交互に見て顔色を変える。
「弥夜子さんがどうして……」
声を詰まらせた彼女の手を掴み、私は足早に通りに出た。
「離してください! ちゃんと説明して!」
「お願い優ちゃん、真己に聞かれたくないの」
横断歩道を渡ってあの公園へ。散歩中の犬が雪に小さな足跡を付けていく。
「弥夜子さん。まさか昨夜、真己くんと?」
「……」
ベンチの前で、彼女は私の手を振り払って問い詰めた。
「どうして黙ってるの!? いつからそんな……もし彼をからかうとか、そんなつもりならあたし!」
「私、乳がんなの」
優ちゃんは一瞬だけ虚を突かれた顔をした後、おもむろに眉をひそめた。
「乳がん……?」
「ステージⅡb。リンパへの転移が疑われるって。来週ウチの病院で左のおっぱい全部取るの」
だから、まだ欠けていない私を見ておいて欲しかった。
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