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※※※
朝の大学病院はさながら戦場と化す。
予約者や一般外来の患者が詰めかけ、そこに急患まで来ようものならその慌ただしさは言うに及ばず。
今朝もそんなスタートだったのだろう、本館の喧騒がこの入院病棟にまで聞こえて来ていた。
“飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなっているんだ”
売店で見つけた絵本“ピーターパンの冒険”をベッドの上で紐解くと、ピーターが私にそう語りかけた。
(……大丈夫。私は飛べる。手術して、絶対完治させる)
今は心からそう思える。
胸がひとつ無くなっても、この世界で生きていけるならそれでいい。
(真己と同じ世界に居られるなら)
もう会えないけれど彼には優ちゃんがいてくれる。それもきっと、大丈夫。
「美園くん、入るよ」
突然病室の扉が乱暴にスライドした。パンプスを鳴らしてやって来たのは、例の上司である乳腺外科の戸上 亜佳里医師。
「医師、ノックくらいしたらどうです?」
「おや、意外と落ち着いてるな。心配して損した」
カカカと笑う医師に、私も力なく微笑む。
「執刀医が腕利きなので、ご心配なく」
「確かに。さすが手術室看護師の君は良くわかってる」
医師の手が私の肩を優しく、けれどしっかりと抱いた。
「君の人生はこれからだ。私の腕と、自分のしぶとさを信じなさい」
「……はい」
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