メイン・スノウ

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 大学病院にほど近い公園のベンチ。そこから見上げた朝の冬空は圧倒的な青だった。  私は視界に広がる爽やかな空を大口で吸い込み、あむっと口を閉じる。 (これで身体の中までキレイにならないかなぁ)  思わず苦笑が漏れた。看護師である自分がなにをファンタジックな事をと。  “美園 弥夜子(ややこ)くん。これは君にとって最善の選択だ”  あの日、上司に言われた言葉に圧し潰されそうになる。自分は他人より精神(メンタル)が鍛えられていると思っていたのに。 (深夜勤明けだから疲れてるんだ)  鉛の溜息を地面に落とすと、座っているベンチがギシッと沈み込んだ。何ごとかと顔を上げれば、見知らぬ若い男が隣に居る。 「……ちょっと。なんでそこ(すわ)んのよ」 「ぼくいつもこのベンチで朝ごはん食べますから」  事もなげにそう返して、男はデイバッグからいそいそとクロワッサンを取り出した。 「私が座ってんだから、向こうの空いてるベンチにいくでしょ普通」 「こっち側は座れます」 「スペースはあるけど! わざわざ他人(ひと)がいる所に……!」  どこ吹く風とばかりにクロワッサンを一口。咀嚼しながら前方の時計台を見つめる横顔は、おっとりと微笑んでいる。
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