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(なんなの? 変なヤツ)
「ぼくはいつもここで朝ご飯を食べるのです。雨の日は家に帰ってから。自分で焼いたクロワッサンと決めています」
「は? それアンタ自分で作ったの!?」
あまりの驚きに不審感も忘れ、話に乗ってしまった。
「はい。ぼくはパン屋さんなのです。ちゃんとお仕事してます。朝までにパンを焼いてお店に出すのです」
男が指さす公園通りの先にあったのは、美味しいと評判のパン屋だった。
「へえ、パン職人。売ったりもする?」
「アルバイトの女子高生が、ぼくがお店に出るとパンが売れなくなると言います」
「そんなこと言われんの!?」
「はい。だからぼくは奥でパンを作るのです」
確かにこの男、距離感といい口調といい、違和感は否めない。
(でも話は通じてるし。アスペルガーの類いかな?)
広義の自閉症に含まれるタイプの一つ、アスペルガー症候群。言語や知能発達に顕著な遅れはないが、終始マイペースで情緒は幼い等々。
(わりと美形なのに、勿体ない)
穏やかな眼差し、形の良い唇。少し長めの前髪に陽の光が柔らかく降り注ぐ。まるで太陽に愛されているかのように。
「……いいじゃん、ただ売るより作れる方がすごいよ」
聞こえているのかいないのか。隣の彼は朝食と朝の空気をのんびり満喫している。
「お店の女の子たちは、ぼくをピーターパンと呼びます」
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