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その時、戸惑う私と真己の間にふわりとベージュのコートが割って入った。
「真己くん、おはよう」
それは学生風の若い女の子。
「優ちゃん、おはようございます」
「会えるかなと思って講義の前に寄ったんだけど。もう帰る時間?」
「はい」
答えながらも真己は遠ざかっていく。私と彼女──優ちゃんの間に微妙な空気を残して。
「あの……真己くんが何かご迷惑を?」
「いやいや何も! ちょっと話しただけ」
優ちゃんは“よかった”と笑顔を見せた。
「アレ、あなたの彼氏?」
「い、いえ、父が真己くんの通ってた特別支援学校の教師をしていて。卒業後もあれこれと面倒をみているので」
頬を赤らめて話す彼女の言葉で、色々と合点がいった。彼が言った“先生”とはこの子の父親の事らしい。
「それに真己くんは女の子と付き合うとか、ピンとこないみたいで……」
遠い目をして、遊歩道を行く真己の後姿を見やる。
「支援学校ってことは、アスペか何か?」
私の無遠慮な質問に、優ちゃんは小さくうなずいた。
「わかりますよね……ちょっと独特だし」
「私これでも看護師なの。そこの順天大病院の」
「え、そうなんですか! 私、いま順天大の二年です」
笑顔が可愛くて面倒見のよさそうな女の子。もしかしたらこの先、真己の支えになる人かもしれない。
(それに比べて私は……)
だからこれきりのつもりだったのに。
「──おはようございます、弥夜子さん」
「……はよ」
その日から私は、毎朝公園で真己と過ごすようになった。
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