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「もうしませんから! ほら行くわよ!」
「え?」
私は彼の手を掴んで走り出した。だって置いていくわけにもいかない。
「あの……」
「いいから走って!」
遊歩道を横切って芝生を抜け、その先の時間貸駐車場へ。そこで私はゆるゆると足を止めた。
「息、苦し……。あのね、ルールは守らなきゃ。困る人がいるんだから」
傍の縁石に力なく座り込んだ私の隣に、真己がまたもや非常識な近距離でストンと腰を下ろす。
「……わかった?」
「…………はい」
お互いそれだけで、ただ暴れる心臓が落ち着くのを待つ。少しずつ楽になっていく自分の身体がとても愛おしい。
「弥夜子さんはティンクに似ています」
「なにそれ」
「ピーターパンの友達、ティンカー・ベルです。気が強くて怒りっぽい」
「誰が気ぃ強くて怒りっぽいのよ!」
「でも勇敢で、いつもピーターを助けてくれます」
素直な感性とその眼差しに、なぜか胸の奥がきゅうと鳴いてしまう。
やがて公園内にいつもの時計台のオルゴール曲が鳴り響き、真己は立ち上がる。
「時間です。ではまた明日」
「う、うん。あ、そうだ私ね」
後の言葉を聞きもせず、彼はスタスタと駐車場を出て行った。
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