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一瞬、凛太郎の脳裏に、数えるほどしか会っていない郁の、繊細そうな横顔が浮かぶ。
凛太郎からみれば贅沢な、絶対的幸福を手に入れているはずの彼女がそんな思いを抱えていたとは。
「……キツイ話だな」
思わず深い息が漏れた。友也はうつむいてしまっている。いつのまにか、二人ともマグカップが空になっていた。保温ポットも空だ。しまった。いつものくせで少なめに作ってしまった。追加のコーヒーを淹れるため立ち上がろうとした時、何かが真正面からぶつかってきて、思わず床に尻もちをついてしまった。
「……ごめん、凛」
すがるように抱きつかれて、友也が泣きそうな声なのに気づく。カップを床に転がし彼を抱きとめる。
「……友也」
久しぶりに間近で嗅ぐ友也の匂いに肌が粟立つ。こんな時なのに鼓動が早くなり、頬まで熱くなってきた。
「もしかしたら、僕は、まちがえてしまったのかな。あの時、郁を引き止めるべきじゃなかったのかな。郁の人生を僕は、狂わせてしまったのかな。僕のエゴで、郁を.......」
ずっと彼の心の中で張りつめていたものがほどけて、むきだしの弱さが晒されていた。
そうだよ。お前はまちがえていたんだよ。
そう告げたら、友也はどんな表情をするのだろうか。
お前はあの時、郁ではなくて、おれを選ぶべきだった。そうしたら少なくとも、こんな悲しい涙を流すことはなかった。さらにしゃくりあげながら、友也は言った。
「こんなの、倫にも悪くて……。だって僕は、時々、……あの子さえいなければって、身勝手なことを思ってしまうんだ。あの時、倫さえ生まれてこなければ、ぼくたちはもっとうまくいってたんじゃないかって、そんな風に思う僕を僕は軽蔑する……」
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