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「でも何か悪かったな。作家先生に痛いところ突かれたからって、全部優のせいにするとか最低だよな。プロの意見なんか気にしないとか言ってたくせに……格好悪すぎ」
三年ぶりに会って、一人称が“僕”から“俺”に変わった北斗は、見た目だけでは無く中身も変わったように思えた。他人に気遣いのできる、大人の男性に成長したように感じられた。
「いやいや、私が悪かったんだよ。変に気を遣わずに、思ったことを素直に伝えてたら良かった」
「……てことはやっぱり、あのときの俺の小説、つまんなかった? いまさらだけど、プロにジャッジしてもらいたい!」
「んー?」
私は適当に微笑んで首を傾げるだけで、何も言わない。北斗はしつこく私の批評を聞きたがったが、最後まで私から聞き出すことはできなかった。
私たちはご飯を食べ終えて店を出る。北斗はこちらを振り向くと、あの頃とは違う、大学生活で身につけたであろう作り慣れた爽やかな笑顔を見せた。
「昼メシ付き合ってくれて、ありがとな。久々に優と会えて思い出話もできて、本当に楽しかったわ。……それじゃあ俺、次の約束があるからそろそろ行くわ」
「……友達?」
「いや、彼女。大学で初彼女ゲットだぜ」
あ、そう。最初に私に彼氏がいないかどうか聞いてきて、男女二人きりで会うのはまずいとか言っておきながら、自分はそういうことするんだ。それとも私は女として見られていないってこと?
……まぁ、どっちだって良い。私は背を向ける北斗を呼び止めて、改めて言う。
「バイバイ」
北斗は怪訝な表情を浮かべながらも、私に手を振る。
きっともう、古谷北斗と会うことは無い。私は今でも小説を書き続けていて、ついこの間、純文学小説の新人賞を受賞したので、単行本を出版するための修正作業に忙しいのだ。北斗は友達付き合いや彼女のご機嫌伺いに忙しいのかもしれないけど……そういうの何か面倒くさそうだし、他人に振り回されている人間を見ると滑稽だな、と思う。
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