<中編>

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「よお」  声がしたのは――後ろからだった。 「え」  私はぎょっとして、四つん這いになったまま振り返ろうとし――そのまま尻餅をついてしまった。  いつから、そこにいたのだろう。真っ黒なローブを身に纏った、群青色の瞳の少年は。 「うんうん、テンプレートの反応ありがとう」  彼はキッチンの前に寄りかかるように立って、にやにやと笑いながらこちらを見ていた。いかにも、な黒いローブ以外はなんてことない、普通の少年に見える。若干目の色が変わっているのと、顔立ちが少々整いすぎている印象はあるが――ただそれだけである。  それでも、私は確信していた。手を伸ばした先。魔導書がほんのりと熱を持って、光っているように見えたものだから。 「あんた……悪魔か、何か?この本と、関係があるの?」  本来部屋の中に見知らぬ不審者(それが中学生相当に見える少年であってもだ)がいたら、相手の名前を尋ねるか、あるいは警察を呼ぶのが筋というものだろう。しかし私は、彼が“そう”だとしか思えなかった。悪魔というにはあまりにも人間じみた姿をしているけれど、それでも纏う雰囲気はどこか浮世離れした印象であったから。 「さあ、なんだろうなあ?」  のらりくらり、と断定を避ける少年。 「まあ、魔法使いって方が近いかもな?魔法使いの“サトヤ”様だ。あんたがお察しの通り、その魔導書に憑いてる存在……みたいなトコ?」 「魔法、使い……」 「信じられない?……そこ信じてもらわないと話が進まないなあ。この鍵のかかった部屋に音もなく現れた時点で、そこそこ信用してもらえそうな気がするんだけどよ。ていうか、俺も忙しい中わざわざ召喚に応じてやったんだ、不審者扱いだけはごめん被るんだけど」  なんとまあ、よくしゃべる“魔法使い”である。ややあっけに取られたものの、すぐに私は頭を切り替えた。彼が言う通り、魔法でもなければ彼がこうして突然現れたことに説明がつかないからである。  同時に。悪魔だろうと魔法使いだろうとなんでもいいから――自分の声を届けて欲しい、願いを叶えて欲しいと思ったのは、事実だ。つまり彼の出現は“願ったり叶ったり”ではあるのである。
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