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「……時間を、巻き戻せる魔導書……っていう認識であってるの、これ?」
これが詐欺か何かだったら、私はトンチキ芝居に騙された大馬鹿者ということになるが。
もう、詐欺でもなんでも縋りたい気持ちでいっぱいだったのである。彼を取り戻せる手段は、それこそ奇跡でも魔法でもなければ叶えようのないものなのだから。
「まあ、間違ってはいないかな」
彼はあっさりと、そのとんでもない話を肯定してくる。
「その魔法を実行するための仲介人が俺、ってかんじ?だから、あんたの願いは俺に言えば叶えられるぜ。“叶えられる”ものならな」
「どういうこと?」
「おいおい、お菓子を買うにも家を買うにも車を買うにも、必要なものはなんだ?金だろ?……魔法を使うのにも、金に代わって必要なもんがある。魔力とか、生命力とか……そいつの一番大切なモノとか、命とか……な?」
命。ごくり、と私は唾を飲み込む。あの人を取り戻したい。けれど、自分の命と引き換えに、と考えていたわけではなかった。何故なら自分の望みはあくまで、彼と共に幸せに生きていく未来なのだから。自分が死んでしまっては、それはけして叶わぬ望みとなってしまう。
「……命は、払えないわ。だから、それ以外のものを……対価にさせて」
大事なものが、他にないとは言わないけれど。
彼と幸せな未来のためならば、多少の苦行は仕方あるまい。それこそ貧乏であっても、不自由であっても、不名誉であってもだ。
「時間を、戻して。……あの人が死ぬ直前に家に来る、その前まで。できるんでしょう?」
「命ではないものを対価にしてか?」
「ええ。多少の不便なら我慢する……あの人と幸せに生きられるなら……私、なんでもする」
だから、と言い募ると。彼はふーん、とどこか不敵に笑って見せた。そして。
「いいぜ。………ほんとに何でもするんだな?」
契約について、最終確認となる言葉を述べたのである。
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