<後編>

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<後編>

 サトヤ、と名乗った魔法使いがニヤリと笑った――そこまでは覚えている。  けれどそこから先がわからない。気がついたら私はひとり部屋にいて、玄関のチャイムが鳴る音を聞いていたのだから。 ――ねえ、まさか。まさかなの。  こんなことがあるわけがない。こんな都合のいいことが。  私はそう思いながらも、誘われるようにして玄関へ向かっていた。そして恐る恐る覗き穴を見て――知るのである。そこに、戸惑うような、緊張したような顔で立っているかの人の姿を。 ――ああ……!  あの日。全く別の意味でドアにすがりつき、わんわんと子供のように泣きじゃくったことをよく覚えている。あの人と一緒にいたいのに、信じられない。捨てられたくないのに、どうすればそれが回避できるかもわからない。あの人の言葉を、真正面から受けとる勇気もない愚かな私は――泣きながらただ、ただ、冷たいドアに体を預けることしかできなかったのである。  今は、違う。  この涙は、あの時とは真逆のもの。あの人の命を取り戻せたのだと、どうかこれが都合のいい夢ではありませんようにと願うものだった。 ――あの日に戻れた……!私、時を超えたんだわ!  歓喜に震える手を叱咤し、ドアノブを握った。ここで笑顔を彼に向けるのはおかしい。だって自分は、ここところ彼に会えなくてすっかりふて腐れていたのだから。彼がプロポーズしてくれることを知っているはずがないのである。  そう、それでも。せめて、これだけは。 「由那……」  玄関先。驚いた顔をする徹に私は――泣きながら思いきり抱きついていた。  信じなくて、ごめんなさい。そんな言葉をどうにか飲み込みながら。
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