第3章 秘密

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―――― 3か月ぶりに見る杉原の姿に遼は少し、緊張感を覚える。 それでも、元気そうな彼の姿を見ると、心が落ち着くように感じた。 本人を目の前にすると、やはり封印した気持ちが揺らぐのを感じたが、遼は今の自分が以前より自制できている気がした。胸元をきゅっと掴んで息を吐いた。 「慎也、久しぶり」 「久しぶり」 さながらお忍びの芸能人のように、サングラスをかけた杉原が小さく片手をあげた。先に来ていたのだろうか、灰皿に吸い殻が1,2本しなびた状態でいた。 落ち着いた喫茶店の店内。有線でサティのグノシエンヌ第2番がBGMとして静かに流れていた。 「元気にしてたか」 「ぼちぼち。慎也は…忙しそうだね」 「まあ。公演やメディアの出演、その合間を縫って練習もしなきゃいけないから」 遼は暇そうにしていたウェイターを呼び止めて、ひとまずこの店が売りにしているホットミルクティを注文した。それ以降は、これ以上言葉が浮かばず、2人の間に微妙な空気が流れてしまう。慎也は咳ばらいを一つした。 「本当は、お前の恋人の手前、連絡取ったり、会ったりするのは良くないことだと思うけど…どうしても、返さないといけないと思った」 小箱を渡される。 裸のまま、渡すのも良くないと思ったのか、杉原は自分で指輪ケースをわざわざ購入してきて、あの夏の指輪をしまったようだった。 そもそも、この指輪を返却されたところで、葛城に言い出せないのは事実だったが、遼は受け取って鞄にしまった。 「ごめん、迷惑を掛けて…」 「いや、迷惑を掛けたのは俺だし、正直色々非がある。その指輪だって、すぐに返すべきものだったのに、あの日、お前が俺じゃない別の誰かのものだって象徴みたくて嫌だった」 運ばれたミルクティ。遼は、すぐに手をつけずに、杉原の言葉にどう返そうか思案することでいっぱいだった。なんて返せばいいか分からなかった。 「遼、こんなこと言われても困るよな」 遼は、困惑していることを誤魔化すように、ミルクティを啜って話題を変えた。 「こ、ここのミルクティ美味しいね。さすが売りにしているだけあって…」 「本当は、俺もお前にこうやって指輪を渡したかった。プロポーズしたかったし、それぐらいお前と一緒にいたかった」 杉原から掛けられた大きな未練の言葉に、遼はどうすればよいか本格的に分からなくなってしまった。そうして、静かに首を振った。 「もう叶わないよ…」
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