第1章 青天の霹靂

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「遼、今日は本当にありがとう。葛城さんも、取材のとき、よろしくお願いします」 2人は杉原と軽く立ち話をしたあと、帰路についた。並ぶ2人は無言だった。時折、口をぱくぱくはさせても、遼は中々切り出せない。重い空気の中で歩く駅までの距離は、行きよりも遥かに遠い。 信号待ち。足が止まることで、気まずい沈黙は更に増幅させられた。辛抱できない遼は、ついに打ち明けた。 「祐樹、謝らなきゃいけないことがある。実は、慎也は、俺の幼馴染じゃなくて…」 葛城は、遼の言葉を待たずに行動に出た。遼を背後からふわり、と抱擁したのだ。驚く遼に、そっと囁いた。 「知ってるよ。君の、例の恋人だったんでしょ」 「どうして……?」 「どうしてもなにも、分かりやすいよ。記者の勘かな。記者じゃなくても分かるけど」 信号が青になっても、周りの通行人と反して2人は固まった様に動かない。 葛城曰く、遼は顔に出るからとても分かりやすい。数日前から何かを抱えているように見えていた。そうして、リサイタルで、杉原の演奏を聴く遼の姿勢を横目で見たとき、何かあるな、と思っていた。そして、杉原との応対を見たときから、薄々2人の関係に気づいたのだという。 「杉原さん、まだ、遼のこと好きなんだね。あんな格好のまま、わざわざ、息切らしてまでまで挨拶しに来るくらいだし」 「ごめん、祐樹…俺は、」 「分かってるよ。遼も、彼のことまだ好きだったりするの?」 「そんなわけ、そんなわけ……」 一度は否定したが、遼は良心の呵責に耐え切れない。場所が場所なので、近くにある公園のベンチに移動すると、秘めていたものを全て何から何まで、葛城に吐露した。どんなことがあろうとも、三行半を突きつけられようとも仕方の無い。覚悟はしていた。 あの青天の霹靂があった日に犯した罪、リサイタルのときの心境。何から何まで。 遼の告白を葛城は、時折相槌をしつつも黙って聞いていた。そうして、全て話し終わると、判決を待つ重罪人のような心地で遼は、ぎゅっと目を瞑る。 葛城は、そんな遼の頭をぽんぽん、と軽く叩いた。 「大丈夫。俺は怒ってない。ちょっと妬けちゃうけど」 「えっ」 思わぬ言葉だった。それどころか、葛城は遼を強く抱き寄せた。この温かさは遼に戸惑いしか産まない。 「俺さ、例え何があっても一生遼のこと好きでいる自信があるんだ」 葛城の目は、真っ直ぐだった。純真な少年のように透き通った瞳に遼はどぎまぎさせられる。 「でも、俺…」 「杉原さんよりも、断然俺の方が遼のこと好きな自信ある。俺は負けられない。来て」 おもむろに立ち上がると、葛城は遼の手を引いた。
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