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葛城は、遼とは大学の同級生だった。
同じ学科だが、お互い接点はなく、話したことはない。顔を見たことがある程度の認識だった。
「大丈夫?」
2人の関係は、遼が適当に入ったチェーン店の居酒屋で1人、テーブルに突っ伏していたところ、葛城に声をかけられたことから、はじまる。
あれだけ好きだった男に半ば振られたような状況下にあり、尚且つ飲食店のアルバイトで客にクレームを付けられるような、失敗をしてしまったことが同時に重なった。そうして、やさぐれてしまった遼は、浴びるように大量のアルコールを摂取していたのだ。
「誰だよ」
「冷たいなあ。俺と同じ学科でしょ。見たことない?あ、一人ならこの席いい?」
「お好きに」
遼は、内側から叩かれるような頭痛を覚えながら、怪訝な目で、馴れ馴れしく自分の前に座った男を見た。ゆるくウェーブのかかった黒髪と、かれの特徴的な右目の横のほくろを見ると、確かに大学でこの男の顔を見たことがあった。
「葛城佑樹。君は、えーと。坂田遼?くん、で合ってるっけ」
「よくご存知で」
「特に理由はないけど、君のこと、なんとなく印象にあったんだ」
店員を呼び止めると葛城は、ビールの大ジョッキを注文した。そうして、気さくな様子で話しかける。
「君、相当潰れてたから心配で声を掛けたんだよ」
「余計な世話だよ」
「俺も一人で飲みに来て寂しくてさ、話し相手が欲しかった。そしたらちょうどいい所に坂田くんがいた」
どんなにつっけんどんな対応をされても、友好的な態度を崩さない葛城に、遼は少し困惑した。遼は残っていた普段飲まないような芋焼酎のロックを一気飲みする。喉が焼けて熱くなるような感覚があった。
「坂田くん、なんか渋いの飲むね」
「手っ取り早く酔えるから」
「嫌なことでもあったの」
「別に。あったとしても葛城くんには言いたくないね」
葛城は素っ気ない声色で応える遼の言葉に苦笑した。丁度、ビールが運ばれてきたので一思いに半分飲むと、葛城は口についた泡を拭く。
「俺の場合は、ついさっき失恋したばかりでさ。憂さ晴らしに、こうやって飲みに来たんだよ」
「えっ」
一見、失恋したばかりには見えない明るい葛城の唐突な告白に、遼は面食らった。
「長年好きだった人にフられたんだ。はぁショック」
遼は大きく目を見開いた。自分の状況に似ている葛城に、強くシンパシーを感じてしまったのだ。一切悲壮な表情を見せず、むしろ開き直っているのか。困ったように笑いながら頭を掻いていた。
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