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遼はすっかり葛城に心を開いてしまった。色々話しているうちに、意気投合して、境遇が似ていることもあって酒も進む。
遼は葛城の話に大袈裟なほど相槌を打ち、葛城は遼の話を真摯に聞いて、自分たちの失恋で盛り上がった。
「あいつが俺を振った理由はね。俺が優しすぎるから、なんだって」
「何だよそれ!意味わかんな!えっ、なんで、どうして?」
「しかも、ついさっきデート中に言われたんだ。別れてくれって」
「はぁ?」
葛城は苦虫を潰したような顔をしつつ、度数の高い酒を煽った。遼も、共感してつられるように飲んだ。
「確かに俺は世話を焼くのは、好きだ。とことん尽くしたいタイプなんだよ。顔を知っているとはいえ、そこまで関わりがなかったのに、潰れていた坂田くんにも声を掛けた。そういうところがお節介だったり、うざいって思われがちなのかもしれない」
「いいや、俺は最初申し訳ないことに、あんな態度取っちゃったけど、葛城くんが声を掛けてきてくれて感謝してるよ」
「でも、あいつには、こんな俺のことが負担だったみたいだ。特に束縛していたわけじゃないんだけど。俺はあいつのことが色んな面で放っておけなかったし、心配症だったから色々世話を焼いてしまったんだ」
このときも遼は、葛城に対してまるで杉原とは大違いだな、と思っていた。遠いところに行ってしまったにも関わらず、ずっと自分を放っておかれているのだ。だから、遼は葛城の恋人が羨ましかったし、葛城が振られた理由も理解不能だった。
杉原にもそうやって、細やかに構われたかったのだ。
「葛城くんの恋人が羨ましい。贅沢だよ。俺なんか、ずっと放置されてるんだよ」
「普通なら留学しても、むしろ何かしら連絡取るはずだよね。俺が坂田くんの恋人の立場で、本当に坂田くんのことが好きなら、逆に連絡しないってのは気が狂いそう」
「でも何もないんだよ。何も。自分から連絡しても返事すら何もない。俺なんかしちゃったのかな」
「そっか。不安だったよね、大丈夫、大丈夫」
葛城の優しい、囁くような声色が暖かい。心に沁みた遼は、ついに顔を手で抑える。アルコールの影響もあってか、ずっと、抑えていた感情を顕にした。
「幼馴染で、昔からずっと一緒で。ほんとに大好きだったんだ。留学しちゃうのは寂しかったけど、あいつのことめっちゃくちゃ応援してたから、明るく送り出したのに……」
遼は言葉を詰まらせた。今までずっと我慢していた感情が外に放出されていく。何かがこみ上げてきて熱くなった目頭を抑えた。それでも肩が波立って、指の隙間から我慢が流れ落ちる。男の癖に情けない、と思っていても塞き止められない。
「坂田くん、今まで1人で抱え込んでたんだね。頑張った、頑張った」
葛城の言葉に遼は小さな嗚咽を上げた。
そうして、葛城は席を移動して、遼の隣に座ると、無言で励ますように背中を撫でた。孤独で冷たかった胸がほうっと、温まっていく。
ーーーーーーーーーーー
それから仲良くなった遼と葛城は、友人として二人で定期的に遊びに行くようになった。
そうするうちに遼は、葛城に告白をされた。温厚で、誠実な人柄に強く惹かれていたのは確かだったが、まだ心の何処かで杉原に対する未練が呪いのように遼の中で燻っていた。
彼を忘れようとしても積み重なった思い出は、ぎちぎちに締め付ける。
それほど、遼の中での杉原の存在感はずっしりと後を引いていた。
遼は、正直に自分の心中を話すと、葛城は表情を曇らせるどころか微笑した。
「無理に忘れようとしなくていいよ。相当、彼のことが好きだったんだろう?」
「そう、だけど。なんか、申し訳なくて」
「俺と一緒に過ごしていくうちに、ゆっくり忘れていけばいい」
そんな葛城の言葉に絆されて、告白を受け入れることができた。
葛城は、本当に良い恋人だった。今まで不満を覚えたことは1度もない。一途で、とにかく自分に尽くしてくれる。
遼も一途に葛城を思い続けて、尽くし続けた。
そうして、漸く遼の過去の記憶が風化しかけていたのだが。
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