322人が本棚に入れています
本棚に追加
此処に来る前、あおちゃん達が住んでいたマンションを見上げた。
ちょっと前までは、あのマンションにはあおちゃんと京子さんが居てくれて、喧嘩する度に逃げ込んでいた。
あおちゃんは
「絶対、章三が悪いに決まってる!」
って言って、いつだって僕の味方だった。
京子さんは僕の話を黙って聞いてくれて、次の日には仲直りさせてくれていた。
あおちゃんがお客様用の枕を抱えて自分の部屋に行きながら
「蒼ちゃん、今日は一緒に寝ようね」
って言うのを、京子さんが呆れたように
「あおちゃん…。いつまでも蒼ちゃん、蒼ちゃんって…」
そう言って笑ってた。
狭いベッドに横になり、あおちゃんが僕に抱き着いて
「いつでも喧嘩して良いからね。そうしたら、こうして蒼ちゃんと一緒に寝られるから俺はラッキーだし」
と言って
「蒼ちゃん、大好き」
って受け入れてくれていた場所が今は無い。
暗く灯りの灯らない部屋を見上げて、急に孤独感に襲われた。
自分は、どれだけあの親子に救われていたんだろう。
「蒼ちゃん、蒼ちゃん」
子犬のように抱き着くあおちゃんの温もりが、香りがどれだけ僕を救ってくれていたんだろう。
悲しみと孤独感に、無意識に走り出していた。大好きな人の温もりが、香りが恋しかった。そして、田中さんが留守だった時、本当に怖かった。
普段は賑やかな街並みが静かに感じられて、世界中にたった1人、取り残されたみたいだった。だから、田中さんが駆け付けてくれた時、本当に嬉しかったんだ。
だから余計、今はこの手を離したく無いと思ってしまったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!