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部屋のドアをノックすると、中から楽しそうな笑い声が聞こえて来た。
電話中か…って後にしようと思った時
「はぁ?言える訳ねぇだろ!馬鹿荻野」
って言葉が聞こえた。
(荻野だぁ?)
思わず腹が立ち
「許さないぞ!」
と、思わずドアを開けて叫んでしまった。
章三は面倒臭そうに舌打ちすると
「兄貴が来たから切るわ」
って通話を終えて僕を睨んだ。
「兄貴さ…」
明らかな「怒」という顔をした章三はそう呟くと、大きな溜息を吐く。
そして
「母さんに聞かれるとまずいから、ドア閉めて」
そう言って座っていたベッドから降りると、隣をすれ違って部屋のドアを閉めた。
そしてドアに背中を預ける形で立つと
「俺さ、兄貴が田中さんと付き合っているのを知っても反対しなかったよな」
と呟いた。
「それは!」
「俺は!自分の意思で荻野と付き合ってるし、後悔してねぇよ。むしろ、もっと早くにあいつの気持ちに気付いてやってれば、あんな事をさせなかったんじゃないかって後悔してる」
僕の声を遮って呟いた章三の瞳は、強い意志と信念を感じさせた。
「大晦日…もし、荻野を傷付けるような事を言ったら、例え兄貴でも許さねぇからな!」
小さな頃、僕の後ろを着いて歩いていた可愛い弟が初めて見せた怖い程に怒った顔にショックだった。
つい最近まで、僕を追いかけるあおちゃん。
あおちゃんを追いかける章三。
それが当たり前の光景だった。
「蒼ちゃん、蒼ちゃん」
キラキラした大きな瞳で僕を追いかけていたあおちゃんは、今や翔の恋人。
これが一番納得いかない!
大体さ、僕を大好きって言ってたのに、なんで翔に行くのかな?
…年齢を重ねたら、それぞれの道を進むのも分かっている。
でもさ、あおちゃんみたいに可愛い弟なら認めたよ。だけど…、身長183cm超えた強面の…しかも同級生の弟なんて嬉しくない!
しかも、どうであれ章三を強姦した事実は変えられない。
睨み合っていると、章三は再び深い溜息を吐いた。
頭では分かってる。
荻野が章三をどれだけ思っているのかは、あいつの章三を見つめる瞳が物語っている。
荻野に護られるように愛されている章三も、本当に幸せそうなのも分かってる。
頭が理解していても、強姦されてボロボロの姿で泣いていた章三を知っているが故に、気持ちが着いていかないのだ。
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