人は二度死ぬと言うけれど

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人は二度死ぬと言うけれど

断荼「こんな夢を見ました。 俺は部屋で筆を持っています。 外は雪がちらほらと降っていました。 風景はほぼ常時自分の視点で、時折少し離れた場所で俺を見ている『誰か』のような視点でした。 俺は、筆を懸命に動かしております。 しかし、その筆先を触れさせているのは紙ではなく、机でした。 べったりと茶色に塗っています。 夢ということはわかりつつも、後で掃除しなくては、なんてことを考えておりました。 自分で思っているよりも没頭していたのでしょう、いつの間にか後ろに誰かが居ることにも気付きませんでした。 「……か……さま…………ど………す……」 なんて声が聞こえて来ます。 どうやら同じ言葉を繰り返しているようです。 「……さま……お…と………か……」 「あに……ご…と……うで………」 「あ………しご……ですか……」 近付いていることから、俺が話し掛けられているようでした。 「あにさまおしごとどうですか」 きっとそう言っております。 豺狼君の声のようにも聞こえます。 しかし、何だか妙でした。 少々嗄れています。 時折ごぽりという音が聞こえます。 一文一文の間隔や話す早さ、調、全てが一定です。 そして何より 俺の真上から、降りてくるかのように近付いているのです。 俺はこんなにもはっきりと聞こえているというのに。 意識しているというのに。 夢の中の俺は何も聞こえていないかのように、自分の手で塗られていく机を見続けています。 直後、俺は、俺を見ました。 少し離れた場所から。 天井に足つく誰かに見上げられている俺を見ました。 豺狼君とはどうしたって程遠い誰かから。 血の泡をごぽりと湧かせる首が伸び、後頭部の無い誰かから。 机を染め続ける俺が滑稽だと嘲るような笑みを浮かべた誰かから。 動こうにも動けません。 口など開いてるかどうかもわからず何の音もたちません。 目を背けようにも見つめてしまいます。 俺を見上げる誰かは骨に皮を張り付けただけのように細く長い両腕を俺へと伸ばします。 そして、俺の側頭部に手を沿えます。 俺は机を塗り続けています。 誰かは、その細い腕では信じがたい程に容易く、俺の首を折りました。 俺は見えてもいない机を塗り続けています。 折れて重力に従って下を向く頭が引っ張られます。 繊維一本一本が無理に千切られる音を鳴らしながら俺の頭と身体は離れました。 頭には用が無いようで、手鞠のようになった俺の頭はぞんざいに投げ捨てられました。 身体は痙攣しながらもまだ筆を動かします。 そんなこともお構い無しに俺の身体は、誰かの手によって天井裏へと導かれます。 動き続ける手は空気に筆を滑らせています。 がたがた、みしみしと木を鳴かせながら引き込まれる俺の身体は、気付けば足袋も見えなくなりました。 俺は、俺の頭と共に取り残されました。 「お前が俺を忘れないのと同じように、俺もお前を忘れないさ」 ごろりと転がり俺に下品な笑みを浮かべる頭がそこにはありました。 ____________________と、此処で起きたんですよ。 とてもおかしな夢でした。 …そういえば、俺は何かの意味等に関して疎いのですが、茶色の色言葉は『執着』なんですね。」
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