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そのころ、僕の産みの親たる博士、泥谷氏は悩んでいた。
完璧な人間のと大差ない機能をもつ、「アンドロイド」の開発に取り組んでいたのだ。
現在造り得る「アンドロイド」は、見た目の限り、どこからどうみても「人間」だった。
ボディは、皮膚、歯、消化器官、筋肉、五感、呼吸、すべてを備えていた。
潤んで光る目には、感情さえ読み取れそうなほどだ。
しかし、中身は空っぽだった。
肝心の人工知能の部分に、大きな課題があったのだ。
人間に存在する感情と意志、それらがどうしても、再現できなかった。
「人間に見えるように」プログラムするだけなら、複数パターンの話し方を記録させ、状況に合わせて発話させれば問題ない。
子供向けのおしゃべり玩具と、同じ仕組みだ。
必要なのは、そんな単純なものじゃない。
自己であり。
自我であり。
意志、そして魂、心だ。
そもそも意志とは何だ。
感情を伴う心とは……。
飽きるほどに研究し尽くされ、繰り返し検証されてきたこの問いは、泥谷氏の前にも、当然のように立ちふさがったのである。
苦悩の果てに誕生したのが、N-10という型番のロボットだった。
数字部分をもじって、「イオ」と名付けられた。
まだ試作段階の、少女の形をしたアンドロイドだ。
見た目の年は十六歳ほどをイメージしていた。
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