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「この試合に勝ったら」
「次の大会で優勝したら」
そしたら先輩に告白しようと思っていた。
思っていたのに・・・・・・
先輩はとてつもなく弓道が強い。
私よりひとつ年上の高校3年生である先輩は明後日行われる全国大会をもって弓道部を引退する。
その前に私、嘉風みはやは先輩に告りたい!
今まで何度も告白しようと思っていた。
でも先輩より弱いのに恋愛なんかしてて、そんなことよりも稽古をしなくちゃいけないんじゃないかと、そう思ってしまっていた。
だから先輩と並ぶくらいの成績を納めてから恋愛をしようと思い、毎回「先輩に告るライン」を目標として自分に課した。
いやーおかげさまで強くなりました!
先輩に告白して付き合ってもらいたいってその気持ちだけでどんどん強くなりましたよ。
きっと素質もあったのかもしれないけどさ。
でも、いつまで経っても先輩には告白出来ない!
なぜって?いつもラインの一歩手前で負けるんだよ!そんな自分が許せなくて結局告白はまだ出来ていない。
明後日のの全国大会、実は私も出ることになっている。
先輩の最後の大会、ここを逃したら部活を引退してしまう先輩と会う機会はもう無いし、受験生となる先輩には勉強に集中して欲しいから、 私にとっても最後のチャンス。
この大会で私の定めたラインは3位以内で入賞すること。
自分にプレッシャーをかけるため、今回は先輩にもこの目標を伝えることにした。
「先輩!この大会で私が3位以内で入賞したら大事なやりたいことがあるんです!応援してください!!」
先輩はいつも通り
「おう、頑張れ。応援してるから」
って柔らかく微笑んだ。
この微笑み。これに私は惹かれたのだ。
普段は鋭い眼差しで的を見つめ稽古に励むが後輩の指導の時や的中の瞬間に見せる穏やかに微笑む姿。ひとつ上とは思えないほど大人びたその微笑み。
この笑顔を自分に向けてもらうためならいくらでも頑張れる。そうやって先輩に追いつくために必死で稽古を重ねてきた。
そして迎えた大会の日。
なんと私は
4位だった・・・・・・
「うぅぅ、ぐすん、なんっで・・・」
「嘉風は頑張ったんだよ。まだ来年があるじゃないか」
堂々の優勝を飾った先輩はそう私を慰めてくれた。
でもっ!先輩のいる大会はこれで最後じゃないですかっ!あなたに告白したかった!好きだって伝えたかった・・・
「なぁ、やりたいことがあるんだろ?応援するからさ。来年、頑張れよ。来年は俺も受験終わってるから見に来てやるよ」
そう言って先輩は私の頭をぽん、と軽く叩いた。
そして先輩が私の顔を覗き込んでもう一度口を開いた。
「俺もさ、この大会優勝したらお前に言いたいことがあったんだよね。俺・・・お前のことが好きだよ。」
へ?
先輩は少し顔を赤らめながらも真剣な顔で続ける。
「お前が一生懸命に努力する姿、ずっと見てきた。誰よりも稽古してどんどん強くなって。俺、そんなお前に負けられないと思ってちゃんと結果を残せたら告白しようと思っていた。でもなかなか勇気がでなくて。この最後の大会でやっとお前に言い出せた」
「嘉風みはやさん、好きです。付き合ってください」
先輩。
先輩も私と同じこと考えてた。
嬉しい・・・・・・
「先輩。私も先輩のこと好きで、入賞したらやりたいことって先輩に告白することでっ!嬉しいです!私と付き合ってくださいっ!」
震える声で伝える。
私の顔もきっと真っ赤になってる。
先輩は私に向かってそっとあの微笑みを見せた。
「やっと言えた。やっと届けられた。」
告白は先輩に先を越されてしまったし、大会の目標に届かず悔しいけれど、私の中は暖かいもので溢れていた。
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