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祖父母が暮らす田舎町。なんにもなくて退屈していたら、見知らぬ子に『一緒に遊ぼう』と誘われた。
同じ、小学校の低学年くらいの子。
いいよと答えたら近くの広場に案内され、そこで、似たような年頃の子達十数にと合流した。
何をして遊ぶのか尋ねると、影踏み鬼をしようと言われた。
確か、鬼になった子に影を踏まれた子が次の鬼になる遊びだ。
みんなでじゃんけんをし、最初の鬼が決まった。
周りと一緒に、走ったりあちこち隠れたりしてその子から逃げたけれど、ついに追い詰められて影を踏まれてしまった。
今度は僕が鬼の番。さぁ誰を捕まえよう。
勇んでみんなを追いかける。その時にやっと気づいた。
僕以外の、誰の足元にも影がない。
「どうしたの? 早く誰かの影を踏みなよ」
「踏まなきゃずっとキミが鬼だよ」
囃し立てられてもどうにもならず、ただ立ち尽くす僕の周りをくすくすと笑い声が取り巻く。
…そんな状態がどれだけ続いただろう。
ある時、周りの中の一人につれられて、見知らぬ子がやって来た。
その子が言う。『何をして遊ぶの』と。
いつの日にか、僕が周りの連中と交わしたやり取り。それとまったく同じ会話の後、僕達は全員でじゃんけんをした。
十人以上の人数がいるのに、勝敗は一度で決まった。
負けたのは僕一人。そう、影踏み鬼の僕が鬼。
周りの面々が散らばる。それを反射で追いかける。でもその中に影がある子は一人だけ。
さも、他の誰かを追いかけているようなそぶりで、だけど僕の狙いはその子だけ。
逃げたり隠れたりするその子を追いかけ、待ってましたと影を踏む。
これで僕は鬼じゃなくなった。…でも、もう、元の暮らしには戻れない。鬼じゃなくなっただけで『人間』に戻ることはもうできない。
最初の子が誰のかは判らないけれど、きっと、こうやって一人ずつ増えた影のない子供達。
その一員になった僕は、この先もずっと、捕まることも捕まえることもない追いかけっこを続けるのだろう。
影踏み鬼…完
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