〈明日は咲く花〉 嘉瀬焔

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〈明日は咲く花〉 嘉瀬焔

「明日は咲く花」。それが祖母の口癖で、弱音を吐く度に、優しくそう言われました。けれども子供とは厄介な思考をするもので、「今日は咲かないの? どうしてなの?」などと問い詰めては、祖母が困り果てた様子を目にして喜びました。これが祖母の家に行く意味であり、楽しみでした。 「明日は咲く花」。これは母の口癖でもありました。使うシチュエーションも、イントネーションも同じ。祖母と母はよく似ています。外見だけではなく、中身も。だから母は毎年、祖母に近づいていきます。祖母はそれから逃げることなく、待っています。遠すぎて見えない、真っ青な空の橋に立って。 「明日は咲く花」。どれが私に咲くでしょう。祖母と母によく似た私は、毎年二人に近づいていきます。けれども母は逃げていく。まだまだ未熟者だと、言っているようです。 「明日は咲く花」。 君は、誰を追いかけるのかな? ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 嘉瀬 焔(かせ ほむら) 小説家。 現在妊娠中。 マタニティマークの着ける位置で 夫と1分も議論した。 高校在学中に『揺れの直線』 でデビューした。
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