14人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
〈明日は咲く花〉 嘉瀬焔
「明日は咲く花」。それが祖母の口癖で、弱音を吐く度に、優しくそう言われました。けれども子供とは厄介な思考をするもので、「今日は咲かないの? どうしてなの?」などと問い詰めては、祖母が困り果てた様子を目にして喜びました。これが祖母の家に行く意味であり、楽しみでした。
「明日は咲く花」。これは母の口癖でもありました。使うシチュエーションも、イントネーションも同じ。祖母と母はよく似ています。外見だけではなく、中身も。だから母は毎年、祖母に近づいていきます。祖母はそれから逃げることなく、待っています。遠すぎて見えない、真っ青な空の橋に立って。
「明日は咲く花」。どれが私に咲くでしょう。祖母と母によく似た私は、毎年二人に近づいていきます。けれども母は逃げていく。まだまだ未熟者だと、言っているようです。
「明日は咲く花」。
君は、誰を追いかけるのかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
嘉瀬 焔(かせ ほむら)
小説家。
現在妊娠中。
マタニティマークの着ける位置で
夫と1分も議論した。
高校在学中に『揺れの直線』
でデビューした。
最初のコメントを投稿しよう!