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〈モルモットは夢を見ない〉 梅山海松
《ふれあいズー》なるものに、子どもたちが群がっていた十二年前の夏。僕は屋根の下のベンチでアイスキャンディを舐めながら、妹が群れに加わっていくのを眺めていた。何が楽しいんだかてんで見当がつかないが、妹曰く、可愛いモルモットが沢山いるらしい。それを知ったらもう大人ぶっている訳にはいかない。母に食べかけの汚いアイスキャンディを託して、朽ちかけた小さな扉を開ける。妹に続いて入ると、見えたのは天国だった。膝に敷いたタオルの上で撫でられるモルモット。コンクリートのトンネルに隠れるモルモット。幼子に追いかけられてキレ気味に逃げるモルモット。なんだ僕は早死にしたのか。……どうやら生きているらしい両手で、飼育員さんに乗せられたモルモットを撫でる。ふわふわ。ほわほわ。ふさふさ。なんとも形容しがたい感触。雲を触ったら同じ感触なのだろうか。しかし、こんなにも触られたらーーことに幼子にぐしゃぐしゃにされたらーーモルモットは気持ちよく寝られないだろうな。僕は撫でて愛でる側で良かった。おちおち寝ていられないなんて、ちょっとどころでなく嫌だから。とかなんとか日記に書いていたらしい当時9才の俺は予想以上に子供だった。
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梅山 海松(うめやま うみまつ)
B型の
物書きで
数学教師で
二児の父親の
最初の作品は、
「積めど崩され」
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