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「お客さん...大丈夫ですか? 困ったな...お客さん!」 オレはタクシーの運転手から揺り起こされた。 「予約の時間に来て待ってたらそこの獣道からフラフラって現れて倒れたんですよ...お客さん。 救急車呼びましょうか?って言ったら大丈夫、大丈夫だからって。 でも意識はもうろう状態でしたよ。」 「ああ... すみませんご心配おかけしました。 この山の神社にお参り行ってて変な事になっちゃいました。」 「この山ですか? 私...30年このあたり走ってますが神社はないはずですけどね。 何だか悪い夢でも見られたんじゃありませんか?」 「ええ...夢かもしれませんね。 でも悪夢じゃありません。 これから人生を精一杯生きようと思える夢でした。 あぁ... そう言えば10歳位の女の子を見ませんでしたか?」 「えっ!... 子供はいなかったし見ませんでした。」 あたりは闇が押し寄せて来ていた。 まだ頭がふらついたがタクシーに乗り込んだ。 そしてまた運転手は話し出した。 「へえ~そりゃ縁起のいい夢でしたね。 ...縁起がいいで思い出しました。 決して縁起がいい話ではないですが... あそこは何年か前にひどい事故がありましてね。 3人も亡くなったってことでした。 それから何ですか... 男女のおばけだとか... 女性と子供のおばけだとか... よくある話ですがね。 見たってヤツが結構いまして... うちの仲間も何人か見てますしね。 でも実は私も見たんですよ。 女性と子供連れで2人仲良さそうに手を繋いでいました。 ほんとにビックリしました。 だからさっきお客さんが女の子の事をお聞きになったから... えっ!て思いましたよ。 あっ、こんな話嫌ですよね? 止めときましょうか?」 「いえ全然平気なので... どうぞ続けて下さい。」 オレは今日体験した事が夢だなんて思っていなかった。 たしかにあかりと出会った。 そしてきっと... 最後の別れをしに来たんだと... 「ほんと噂なんですけどね。 かなりハッキリと顔を見たって人も結構いるんです。 私なんかおっかなびっくりでそんな余裕ありませんでしたし、 後方から見たので顔は見えませんでした。 その人達が詳しく調べたらしいですね。 そしたら家族じゃなくて亡くなったカップルだったようです。 その方々は結婚してなかったので子供もいなかった。 そしてもう1人はやはりカップルで女性が亡くなった。 男性の方は一命を取り留めたって事でしたがその後は分かりません。 その亡くなった女性だという事も特定されました。 ただ子供さんの事は分からずじまいだったようです。 まあ、そんなトコですかね。 あのお地蔵さんが建てられてそんな事はなくなりました。 やはりお慰めされたんでしょうね。 あのお地蔵さんが... これからこのあたりは雪も積もりますし寒さも厳しくなりますからね。 さっき車出す時チラッとお地蔵さんを見ましたが... どなたか知りませんがマフラーを巻いて頂いたんでしょうね。 お地蔵さんが寒くないようにってね。」 オレはめまいがしててお地蔵さんを見てなかった... 拳を握りしめた。 「運転手さん、ほんとすみませんがもう1度あの場所に引き返してはくれませんか?!」 「え!何か忘れもんですか? 私は全然構いませんが...」 渋滞のせいでそれ程走ってはいなかった。 ヘッドライトに映し出されたあのお地蔵さんの首には間違いなく白いマフラーが巻かれていた。 タクシーを降りて近づくとお地蔵さんが微笑んでいるように見えた。 手を合わせるとふと... 耳元で囁きが聞こえた。 (あなたの手を取って私のもとへ導いてくれたの... 私にはマフラーを巻いて差し上げる事が出来ないからあなたにお願いしたの 私の最後の願いを...) そう聞こえたような気がした おわり
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