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彼女が亡くなってからもう2年になる。
1年間は何をするでもなく気力もなく仕事も漫然として手に付かなかった。
夜になると彼女の事を思い出しては枕を濡らした。
2年目になると友人や同僚の誘いで食事をしたりプチ旅行に出かけたりしたが、何処に行っても何をしても彼女との記憶がシャボン玉のように弾けた。
女性を見ると何処かに彼女の面影がないか探してしまう。
「……これじゃ駄目だ。」
何度となく自分に言い聞かせても断ち切ることが出来なかった。
いりや あかり
付き合い始めて3年目...
プロポーズを受け入れてくれたオレの最愛の人だ。
来年の5月、彼女の27歳の誕生日に合わせて式場を探していた。
あの日...紅葉を見に出かけた。
彼女は電車で行こうと言ったがオレは車で行く事を押し切った。
途中の山道も美しかった。
紅や黄色や茶色の木々の葉は散り行く命の炎を燃やしていた。
神社や滝や湖の紅葉も素晴らしかった。
多くの写真をSNSにあげた。
陽が傾き始めると急激に気温が下がり急いで車内に駆け込んだ。
「やっぱり車で正解だった。」
オレは誇らしげに彼女の肩をポンと叩いた。
そして彼女がくれた手編みのマフラーを首から外し手渡した。
「持って来て正解だったでしょう。」
彼女は自慢気にマフラーを半分たたみ自分の太ももに掛けた。
途中で夕食をする事に決めていたので、和洋中何を食べるか相談しながら渋滞した山道をノロノロと走った。
「わたしやっぱり和食がいいかな。」
彼女がそう言った瞬間、
眩い光が車内を覆い記憶が途切れた。
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