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あかりの3回忌の法要。 寺を囲む木々の葉は敏感に色を変え、 散り行くわが身をオレの記憶に残そうと鮮やかな彩りを見せつけていた。 法要が終わり参列者は口々に 「もう2年……身体はどう? 良くなってる?」 みんなが聞いてきたけど頷くしかなかった。 そしてオレは決めていた。 3日後のあの日…あかりがいなくなったあの場所へ会いに行こうと… お袋が車で連れて行ってくれると言ったがオレは自分ひとりで行きたかった。 あかりの命日。 オレは下調べした通り電車とタクシーを乗り継いであの場所へ辿り着いた。 もう杖は必要なかったがチョット自信がなくて持って行った。 紅葉の時期だから車がひしめいていた。正確な場所は調べておいた。 お地蔵さんが建っているのが目印だったが、思ってた以上に大きくてビックリした。 手を合わせると涙が溢れ出て止まらなかった。 あかりは寒がりだったからちょっとだけお地蔵さんの頭にペットボトルの水をかけた。 そして好きだったチョコと花を供えた。 もう少し早くここに来れば良かったと後悔しながらまわりを見回すとちょっと先に山道が見えた。 時計を見るとタクシーの予約迄まだ時間があった。 散策して見ようと思い歩き出した。 人がやっとすれ違えるほどの細い山道をトボトボと歩いた。 暫く歩くと紅葉に溢れた木々のトンネルの様な所があり木の葉が舞っていた。 そこを抜けると赤い古びた鳥居が現れてその先には神社が見えた。 こんな所にお社(おやしろ)があったんだと思いながら石の階段を上がると女の子が真っ赤なもみじを集めて遊んでいるようだった。 社務所の隣には休憩処があり... 両親だろうか...こっちを見ていた。 オレはちょっと頭を下げ本殿に入り鈴緒を振った。 鈴の音が山に響いた。 石段を降りるとさっきの女の子が泣いていた。 「あれっ...どうしたの?」 「モミジの葉っぱ失くしたの。」 「そうなんだ...でもいっぱいあるからまた拾えばいいよ。」 オレはそう言って休憩処の方を見たが両親の姿はなかった。 「お父さんとお母さんは?」 「下で待ってるからモミジ拾ったら早く下りておいでって...」 「そうか...じゃぁ気を付けて降りるんだよ。」 オレは何か釈然としないままそう言って歩き出そうとすると、 「おにいさん、一緒にいてくれませんか?」 女の子はそう言ってオレを見上げていた。 よく見るとどこかで見た事ある顔だったが親戚や知り合いにこれくらいの子供はいなかった。 「うんいいよ。モミジを拾いながら行こうか?」 「うん... でももういいの... おにいさん... わたし寒くなっちゃた。」 よく見るとこの季節の割には薄着で上着を車に置いてきたのだろうと思った。 オレは紙袋に入れたあかりのマフラーをこの近くで供養しようと思って持ち歩いたが中々決心がつかずにいた。 「じゃぁこのマフラー巻いてあげよう。」 下で両親に事情を話して返してもらえばいい。 オレはそう思い歩き出した。 「暖かくてフワフワで気持ちいい。」 その子は嬉しそうにそう言いながらオレの手を掴んだ。 その子の手は驚くほど冷たかった。 「そうだろう... このマフラーには暖かい思い出が沢山詰まってるからね。 だから...心も暖かくしてくれるんだよ。」 「そうなんだぁ~。」 その子はそう言ったきり黙りこくった。 鳥居を抜け木々が茂ったトンネルの様な所に入ると木ノ葉が頭や身体に落ち始めた。 その時... 突然その子が繋いだ手を振り払った。 オレは、えっ! と思いその子を見た... あかりが立っていた。 見間違うはずもない... あかり...だった。 言葉が出なかった...いや...言うべき言葉が見つからなかった。 オレを救ってくれたのを最後にこの2年間、夢にも現れてくれなかったあかりが目の前に佇んでいた。 「あかり...」 そう言うのが精一杯だった。 でもあかりは寂しそうで悲しい顔をしていた。 「あかり...何か言ってくれないか...」 オレは声を振り絞って言葉にした。 (信ちゃん... わたし幸せだったよ... いつかきっと今日みたいに 絶対信ちゃんを見つけるから ...だから私の事...もう忘れていいよ ...うんん...忘れなきゃダメだよ 信ちゃんありがとう... いっぱい愛してくれて...) 木ノ葉がオレの頭や顔に降り注いで目が開けられなくなった。 そしてあかりを見失い..... 意識も失った。
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