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ふられ続けて早幾年
「ごめんなさい。不定期収入の人とは付き合いたくないの」
そう言って俺から離れて行く宿屋の看板娘。立ち去る彼女を追う事なくその場に残る俺。
「冒険者って、やっぱりモテないのだろうか?」
「当然だろう。毎回命がけの仕事をしていて、決まった収入が約束されてない上に、遠征した日には何時戻るかも解らない。そんな奴に惚れる方が可笑しいだろうよ」
「そう言うお前も立派な冒険者の筈なのに、何で彼女が居るんだよ?」
「だって僕、実家が金持ちだし。何よりルックスが有るから」
「世の中不公平だ」
俺はふられる様を見られていた仲間に不貞腐れた。奴は幼馴染であり、一緒のパーティーでもある。実家が金持ちなのに何故か冒険者になっている不思議ちゃんだ。
「もういっその事、モンスターと付き合えば?」
「俺はコレでも面食いだ。ゲテモノに好かれても嬉しくないぞ」
「いや、君知らないのか? モンスターの中には人化して言葉も話せる上、美人になる存在が居るって事」
「何ですと!?」
俺は耳を疑った。討伐されるはずのモンスターが人化するだけでなく美人になるなんて。
「レアモンスターもそうだが、モンスターテイマーやっている奴が数年かけて育てていたら、人化したって噂話聞いた事ないか?」
「え? あれって本当の事だったのか!」
「元々、主従関係だから奴隷なんて目じゃない位に尽くしてくれて、その上美人と来たから羨ましがる奴等が沢山いて一時期、モンスターテイマーになる輩が増えたって話しが有ったじゃないか」
「金持ち以外は職業をそう簡単に変える事なんて出来ないから現実味が無くて、嘘だと思っていた」
「まぁ、実際に職業変えた奴で人化に成功させられた話が無いから嘘と決めつけていても仕方はないか」
「そんな落ち知りたくなかった」
「で、実際の所君は転職する気有るかい?」
「手持ちがないから無理だな」
「其処は僕が貸してあげるよ?」
「バカ言え。お前からは絶対に金を借りないと心に決めている。それをしたら昔、お前に付きまとっていたクソ野郎どもと変わらなくなっちまうだろうが」
「フフ、そんな君だから僕は今でもパーティーを続けて居られるんだよ。で、此処に金目になりそうな依頼書があるんだが、受けてみるかい?」
「おいおい、掲示板から取って来た物は受付嬢に直ぐ渡さなきゃ怒られちまうじゃねえか!」
「大丈夫、この依頼書は数ヶ月誰も受けてない代物だから」
「何で誰も受けてないんだ?」
「女性冒険者に不人気な上、場所がダンジョンだからだよ」
「もしかして・・・」
「オークキングの討伐」
「聞かなきゃ良かった」
「レベル的には僕達ならイケそうだけれど、未だダンジョンに行くのは気が引けるのかい?」
「仲間を失っちまった過去を消せるなら、今すぐ行きたいさ」
「いや、死んだみたいな言い方するなよ。単にパーティーから離脱されただけじゃないか」
「五月蝿い! 思い出したくもない。何だよ、子供が出来たから冒険者辞めるって!? 何時の間に彼女作ってたんだよ!」
「娼館の娘に決まってるじゃないか。アイツが毎夜出かけていたのは知っていただろうに」
「知っていたさ。でも普通避妊してる筈だろ? 何で子供出来ちゃうのさ?」
「アイツの場合、一途に通い詰めて身元引受けまでこじつけたからなぁ」
「俺と同じでイケメンじゃなかったのに・・・」
「その代わりに筋骨隆々だっただろう。筋肉に惚れる女は意外と多いんだよな」
「何故俺には付いてないんだ!?」
「いや、後衛の君が筋肉有ったら可笑しいだろう」
「俺の現職が憎い!」
俺は前に立って立ち塞がる前衛にはトコトン適性が無かった。そして現職として選んだ職業は付与術師。バフとデバフを敵味方にばら撒くサポーターだ。
「今迄コツコツと溜めていた金と、この依頼書を受けて成功報酬を手に入れれば転職可能になるよ?」
「う、でも未だ人の彼女が出来る可能性が・・・」
「今回振られて丁度100回の記念すべき日なんだけれど、盛大に祝おうか?」
「畜生! やってやる。俺は転職するぞ!」
数日後、オークキングを倒した俺達は受付嬢に鼻を摘まれたまま報酬を受け取るのだった。うう、オークキングがあんなに臭かったなんて知らなかったょ。
ダンジョンから出て直ぐ川で身体も服も洗ったが、匂いは暫く残り続けて宿屋からも追い出される始末。散々な目に遭いながらも、俺は晴れてモンスターテイマーに転職出来たのだった。
こうなりゃ絶対に人化させて、モンスターの彼女を作ってやる!!
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