傀儡が好きで

1/1
前へ
/2ページ
次へ

傀儡が好きで

嗚呼また来たよ、お客さんだ。 きっとあの子も素敵な筈だ。 村人達に歓迎されている。 そんな笑顔は退屈かな。 僕はもっと違うのが見たいな。 目が合ったね。 駄目だよ、僕はこの村には必要な不必要なんだ。 今は、認識してはいけないよ。 皆を見習って、無視してね。 また後でお喋りしようか。 楽しみだね。 楽しみだね。 「駄目!此方、此方だよ!早く!」 夜中、小声で、声を張り上げてみる。 必死な顔したあの子が来る。 早かったね。 僕の家に駆け込んでくるあの子。 急いで戸を閉め、あの子の口を手で塞ぐ。 しっ……、って人差し指を唇に当ててみる。 村人達の足音が家の前を通っていく。 しん……とした静寂を見つめ、良い頃合いでゆっくり手を外す。 「………大丈夫、もう行ったみたい…」 安堵の溜め息混じりに声をかける。 自分の状況を飲み込めず、僕も皆と同じなんじゃないかと疑う目、焦点は軽く揺れている。 荒い息と一緒に「何、何で、何あれ」と意味の無い自問を吐き出している。 今回はどの神様を見たのかな。 火葬?土葬?………まぁ誰でも良いか。 震える手に腕を掴まれる。 「…此処では、誰も信用してはいけないよ」 たった今味わったんだから、わかるでしょ? 皆、御客様を逃がしたくないんだ。 神様を見られたら駄目なんだ。 絶対にね。 「今出るのは無謀だ、頃合いを見て逃げないと。それまでこの家で匿ってあげる。その時が来るまでは、待ってて。」 ほら、疲れたでしょ? もう寝ようか。 怖くて眠れない? 大丈夫、僕が傍に居るよ。 無理にでも目を閉じていればいつか眠ってるよ。 おやすみなさい。 戸を強く叩く音で目を覚ます。 僕を呼ぶ声がする。 怯えるあの子を部屋の奥に隠して戸を開ける。 あの子を探してるってさ。 どうやら村長の家にある食料等が盗まれたらしい。 それであの子に容疑がかかってるんだって。 そろそろ聞き飽きたかも。 知りません、僕はずっと此処に居るんですから。見てないですよ。 僕は嘘を吐く。 あっさりと引き返していく。 戸を閉め鍵をかけ、あの子の元に戻る。 可哀想に、怯えきってる。 あの子はたまに聞こえる外の物音に身体を強ばらせて僕を見る。 僕は歩み寄って大丈夫と声をかける。 この繰り返し。 ________嗚呼、可愛いなぁ。 僕の思惑通りだ。 とっても輝いて見えるよ。 あの子が寝てる隣の部屋で、僕は人形を見つめる。 あの子の寝息を聞きながら、あの子の怯えて僕に縋り付く顔を想像しては自慰に耽る。 死の恐怖に支配され、僕だけが希望だという目。 僕しか信じられる者が居ない、僕なしでは何もできない弱者の目。 僕だけが見れるあの表情に、酷く興奮する。 あの子の可愛い顔に向けて欲を吐き出す妄想をして、僕は果てる。 呼吸を落ち着かせ、熱が鎮まっていくのを感じる。 手に在る人形の頭部は白く汚れている。 床へと滴りかけるその白濁を舌で舐め取る。 どろりと舌に絡み付く、ちゅるっと唇を湿らせ滑る、生暖かくて独特の風味を口内でくちゅくちゅと小さな音をたてて唾液と混ぜ合わせる。 喉に流れていった自分の一部の余韻を楽しみ、何事も無かったように後始末をして眠りについた。 頃合いだろう。 出してあげなきゃ。 退屈だ。 彼の手を引き外へ繋がる戸を開ける。 周りを確認する素振りの後、彼を先に出す。 背中を強く押し、待っていた村人の前に転ばせる。 恐怖と絶望で悲鳴もあげられないようだ。 どうしてと言わんばかりの視線。 今までの環境に慣れて見せなくなったあの最高の表情と比べると、だいぶ滑稽。 だから、誰も信じるなと言ったのに。 何を今更と言いたげな笑みを浮かべてみる。 「可愛くないお前は要らないよ」 そう言い捨て家に入る。 「全く…彼奴の性癖はどうも理解できない」なんて声に戸が閉まる音が続く。 村人に興味は無い。 退屈だから。 彼もそう。 もう退屈な村人になったから。 神様だって『普通』に見えるよ。 「そろそろ村長から物質受け取りに行かなきゃ」 減ってきた食料を見て呟く。 次は男か、女か、誰だろう。楽しみだなぁ
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加