夜に混じれば皆同じ

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夜に混じれば皆同じ

あんなこと、言わなきゃ良かった。 俺がオバケなんて居ないって言わなければ、 俺がしょーめいしてやるなんて言わなければ… 「こんなことにはならなかったのにぃ……」 思わず溢れた涙と一緒に、口を押さえていた手をはね除けて声が漏れた。 そうなったらもう抑えられない。 「……っふ、うえぇ……かあちゃん………」 誰か、誰か 助けて 「________________________!」 誰か、来た 母ちゃん、なわけない 姉ちゃん、が来るわけない 先生……? いや、違うかもしれない 動けない 近付いてくる 足音が 俺の 目の前で 「……………あ、れ……?」 薄く目を開けた。 馴染み深い上履き。 見覚えある靴下。 教卓から顔を出し、恐る恐る上を向く。 冷めたような視線を向けるのは青、あお…… 「!…あお………っ!」 咄嗟に教卓から出て立ち上がる。 ぶつけた手首の痛みはそっちのけで、強く抱き締める。 「よかった…今すげぇ会いたかった……! …………あ、いや…痛かったか?ごめんなー…」 身体を離してから少しの沈黙の後、手を繋がれる。 普通な顔してるけど、あおも怖かったのか?なんて思った。 手を引かれてそのまま廊下へ出る。 急に動いたから転びそうになった。 「……なー、あおー。どこに行くんだ?そっちは昇降口の反対だぞー」 そのまま歩く。 何も喋ってくれない。 振り向いてもくれない。 ぶつけた手首が今更痛くなってきた。 「あおー?なー、あおー」 腕を引かれた状態で、あおの斜め後ろから呼ぶ。 反応が無い。 喋ってくれない。 手が痛い。 痛い 「無視するなよあお!帰るんだろ!?」 あおが立ち止まる。 びっくりした。 気になったけど、どうしてか 横に並んだり顔を見る気にはなれなかった。 「………あお?」 動かないあおを呼ぶ。 ちゃんと繋いでいた筈のあおの手は、いつの間にか俺の手首を掴んでいた。 夏なのに冷たい手が、ぶつけた場所を冷やす。 顔は、やっぱり見れない。 あお そう呼ぼうと口を開きかけたとき 「ア゛アァアアァァアァァァアアアアァァァァァアアァァァァ」 「…ひ……っ!?」 廊下中に響き渡る声。 普段のあおからは聞いたことないような低い声。 怖い 逃げたい 離してくれない 途切れず聞こえる声 顔が少しずつこっちに向いてきてる気がする 咄嗟に、ズボンのポケットに入れていた塩と小石をあおに投げ付ける。 怯んだのか、少し力が弱まった手を振り払って全力疾走で昇降口を抜け、外に出た。 あおは来てなかった。 置いてきてしまったと思ったが戻ろうという行動には移せなかった。 家に帰ると物音で起きた母ちゃんに滅茶苦茶怒られた。 「……えっと、あお…。昨日ごめんなー、石投げて、置いてって…」 翌朝、おはようより先に謝った。 「……一体何のことですか?」 予想外の返事だった。 「え、だって昨日の夜俺…あおを学校に……」 「……昨夜は学校には残っていませんでしたが」 「……じゃぁ…あのあおは…………」 急に身体から熱が奪われていく感覚がした。 治った筈の手首が脈に合わせてズキンと痛んだ。 ……あのあおは…やっぱりあおじゃなかった……… あのままアレについていってたら………俺は________________ 「ア゛アァァァ」 誰も居ない耳元で、確かに低い声がした。
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