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五十代
息子が俺にとっての孫を授かって早10年。
忙しく流れる時。若い時には感じなかった一年の早さ。
毎年2回は顔を見に来てくれているが、今日めずらしく電話があり、会いに行ってもいいかと息子に問われる。
あくまで事前連絡だったらしいが、暇を持て余していた所だしと、直ぐに来いと伝えた。
「……何だか似ていますね」
「何がだ?」
「いえ、別に?」
息子を迎える準備をすること十分程。意味深に呟いて、クスクスと笑い誤魔化す妻に疑問を浮かべる。
首を傾げて思い出そうとするが、その思考を遮る様にインターホンが鳴り響く。
鍵があるのだから入ってくればいいのにとも思ったが、急いでて忘れていたのかと思い、玄関を開けに行く。
音を立てて開けば、目の前には息子の姿。
「おかえり」
「ただいま」
何気ない一言。息子が帰って来たと実感する。出迎えられたのだと実感する、何気ない一言。
少しやつれた感じのある息子の顔を見て、ふと思う。
「少し老けたか?」
「それはこっちの台詞だよ、父さん」
再び首を傾げた。母親の癖が移った苦笑を見せながら、「何でもない」と紡ぐ。
酷くデジャヴる会話だ。体験した事のあるような、無いような。
しかし「こっちの台詞」とはどういう事だろう。一応年2回会っているし、その時と大した差は無いと思う。妻に顔を向けてみれば、息子と同じように苦笑を見せた。
「……で、突然どうしたんだ? 理由もなく来た訳じゃないんだろ?」
「あー……その。まだ頭こんがらがってて、上手く纏まんないんだけどさ」
息子は頬を掻いて、はにかむ笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。
「『良い親』って何だろうな……って思ってさ。それで浮かんだのが父さんだったから。それで、えっと……面と向かって言うのは恥ずいし、高校生の頃じゃ言えなかったんだけど」
今は大人だから。恥ずかしくても、伝えたい事は伝えたい。何気ない一言に、感情を込めて。
知らず知らずの内に紡がれる本心は、かつての自分を思い出させる。その記憶は、続く言葉を確信させた。
「産んで、育ててくれて、有り難う」
「───」
結婚式場でも言われた事のある言葉だ。今まで育ててくれて有り難うございましたと、親から離れていく意思表示をする言葉。
あの時は“その場だったから”というのもあるだろう。今この場で言ってくれたその言葉には、かつて言ってくれた言葉とはまた別の気持ちが込められてる気がした。
───ああ、俺は間違っていなかったんだな。そう確信する一言。
きっと、親父も似たような事を思っていたのだろう。今の俺と似た事を。確信していたから、陰ですら不安を見せなかったのだ。迷いが無かったから。
迷い、不安を抱え。それでもこの一言の為に、俺は軌跡を辿った。
そっと、目を閉じる。
「……父さん?」
時を超えても、世代を経ても、その遺伝は止まらず紡がれる。その血は永遠の繋がりを見せる。
お前も立派な親父だぞ、と。
「いいか、よく聞け───」
そうして、安堵する五十代。
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