1148人が本棚に入れています
本棚に追加
/240ページ
繋いだ手から奏くんの体温が伝わる。
滑らかな肌。長い指。硬い関節。
風に揺れる髪。ざわめき出す街路樹。
浮かれた春の陽気。湿った夜の匂い。
記憶にある制服姿じゃなくて。
スーツ姿の奏くんは知らない男の人みたいだった。
「…ラーメン!」
沈黙に耐えられなくて、慌てて叫んだ。
奏くんは一瞬大きく目を見開いてから、無邪気な子どものような笑顔を見せた。
「うん。俺も」
奏くんが繋いだ手に力を込めて。
すごく優しい目をして私を見るから、
もう全然痛くないのに、足に力が入らなくなって転びそうになって、
すがるように奏くんの手を握り返してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!