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「や。そんなことして頂くわけには。すみません、すぐ片付けます」
麻雪さんの白くて細くて美しい指で、汚い雑巾を触らせるわけにはいかない。
慌ててガシガシと雑巾で濡れた床を拭き始めると、
「何言ってるの、のいちゃん」
麻雪さんが柔らかい笑い声を上げながら手伝ってくれた。
…これでまた研究室の皆さんの恨みを買うんじゃなかろうか。
こっそり周囲を伺い見ると、
みんな優雅な麻雪さんのしぐさにうっとりとみとれながら、
「俺たちの麻雪さんに何やらせてるんだ、このクソザル」という怒りの視線を隠そうともしていなかった。
麻雪さんは温かくて優しくて研究室の皆さんに愛されている。
そして。
「のい、まだ帰ってなかったのか」
個室に籠って実験をしていた和泉さんが研究室に入ってきた。
「私が引き留めてたの。ごめんね、イズミくん」
麻雪さんはどんな空気もふんわり包んで優しく溶かす。
だけど、和泉さんを呼ぶ声だけには特別な響きが込められている。
「そうか…」
そして和泉さんが麻雪さんを見る目にも特別な優しさが込められている。
麻雪さんは温かくて優しくて研究室の皆さんに愛されていて、
そして。
和泉さんの恋人だ。
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