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「のい? 大丈夫か」
和泉さんが慌てて起き上がって私を抱き起こそうとしてくれたけど、気力で何とか上体を起こし、
「だ、…大丈夫です。全然。平気!」
両手を振ってみた。腰が抜けたみたいで立てない。
「…悪かった」
和泉さんはそんな私を見て漆黒の瞳を切なく揺らし、いたわるような表情をした。
「ぜ、…全然。あの、ちゃんと分かってます。間違えたって」
バカみたいに両手を振ってアピールし、何とか笑顔も貼り付ける。
和泉さん、麻雪さんと間違えたんだよね。
分かってる、分かってる。
ドントウォーリー、ノープロブレム。
「いや、…」
和泉さんは伸ばしかけた手を握りしめて視線を落としてから、何かを振り切るように顔を上げて私を見た。
「…さっき、お前の電話が鳴ってた。かけ直した方がいいだろうな」
「…はあ」
何だかよくわからなくて曖昧にうなずくと、
「用意が出来たら一緒に出勤しよう」
淡々とした口調で告げて、軽く私の頭に手を乗せた。
「はい」
大きな手が、温かさが、…胸に痛い。
和泉さんは麻雪さんに、
あんな風に優しくキスするんだな…
「…のい」
部屋を出る前に和泉さんが足を止めて、
「間違えたわけじゃない。…夢だと思ったんだ」
小さくつぶやく声が聞こえた。
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