blue.5

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「今朝の電話、…」 「え?」 「…いや。何でもない」 何か言いかけた和泉さんが黙ってしまったので、意識がつながれた手のひらにスライドする。 大きい手。温かい手。 私の頭を優しく撫でて。 私を包んでくれる手。 節が骨張っていて、大人の男の人って感じる。 この手でどんな風に麻雪さんのこと、… うおー、そこは考えたらダメなとこ! 意識を切り替えるべく、 「璃乙くん、すごく大人びてますよね」 へらっとお子さまを誉めてみると、 「…俺のせいだ」 和泉さんは硬い口調で自分を責めるように目を伏せた。 え、なんで? 私、誉めたよね? なんか地雷踏んだっぽい!? 「俺は、…ダメだな」 しかも和泉さんが反省し出した―――っ 「お前には、幸せになって欲しいと思っているのに」 和泉さんが私とつないだ手に力を込めた。 「…離したくない」 え? 太陽の光が降り注ぐ朝の混雑した道で、見上げても和泉さんの表情が読めない。 心臓が狂ったように凄まじい速さで動き始めた。 今、なんて、… 「だから、…近づくなって言ったんだ」 自嘲気味につぶやいて私に向き直り、するりと私の髪をひと撫ですると、寂しそうな笑顔を見せた。 声が出ない。 心臓の音がうるさい。 それきり和泉さんは何も言わなかったけれど、つながれた温かくて大きな手は、私を離そうとはしなかった。
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