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「ちょっと、ちょっと―――っ、何、手つなぎ出勤してるの―――!?」
「初恋は無残に散ったんじゃないんか――い!」
お昼休み。
社食で声を張り上げるミオちゃんとサリちゃんの口を慌ててふさぐ。
和泉さんは若き天才エンジニアで私生活は謎に包まれてるんだから。
まとめた資料の中にそう書いてあったんだから。
社食で聞かれたんじゃ午後には会社中の人に知れ渡ってしまう。
「いやさ、もう既に噂の的だよ」
「あの和泉王子がサルを連れて出社したって」
「実験にサルを使うのかって」
…サルじゃないし。
憤然として中華丼を頬張る。…美味しい。きくらげ最高。
「いいじゃん、いいじゃん。初恋の逆襲」
「人間とサルの逆転生活。これがホントの『猿の惑星』」
面白がってるよね。絶対面白がってるよね。
盛り上がっているミオちゃんとサリちゃんをじっとり眺める。
「まあ、年上美人妻はともかく、子どもは気になるところだけど」
サリちゃんが周りを見回しながら声のトーンを最大限に落とす。
「でも、小学生って、…相当若くしてパパになったって事じゃん」
ミオちゃんも周囲をうかがいながらこそっと囁く。
「それか、…相手の連れ子か」
…なんと。そんな発想があったのか。
和泉さんと璃乙くん、似ているような気がするけどな。
「まあ、頑張って! 猿の惑星」
「次の成果報告を期待してるぞ」
ミオちゃんとサリちゃんが代わる代わる私の背中をばっしばし叩いて去って行く。
…痛いし。サルじゃないし。
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