親友が僕の目の前で

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親友が僕の目の前で

俺は『年上の男』が嫌いだ。 いや、正確には、怖いんだ。 道行く人どころか学校の先生達すら駄目。 最近やっと父親に慣れた具合だ。 元はこうじゃなかった。 あの時のせいだ。 俺のせいだ。 俺が、俺が____________ 小学生の時、親友が俺の目の前で、大学生くらいの男に犯されて、殺された。 俺達は、遺跡とかがあるようなデカい公園でかくれんぼをすることになったんだ。 俺は公園の端っこにある立て付けがあまり良くなくて戸が開いていた大きい倉庫に入り、物陰で息を潜めていた。 外の風の音やたまに聞こえる鳥の鳴き声に耳を傾けつつ、何分も同じ場所に居た。 なかなか来ない。 俺のこと忘れて帰ってないだろうな、そう呟こうと口を開きかけた時 ガッ、ガラッ って一瞬突っ掛かった音をたてて戸が開いたんだ。 親友なのか、それとも大人の人なのか。 どちらにせよ此処に居る以上見付かってはいけないと思って身を縮めた。 聞こえるのは二つの足音。 「なぁ、本当に此処に居るの?」 親友の声だ。 誰かに連れられたらしい。 隙間からこっそり見る。 大学生くらいで前髪が少し長めで、顔はよく見えなかったが真面目とか優しいと言うよりは暗い印象だった。 『もくげきしゃ』を使うなんてズルいぞ!……とは言えなかった。 男が閉めづらそうに力ずくで戸を閉めたと思いきや、驚いて振り返った親友にキスしていた。 そのまま親友を硬い地面に押し倒す。 状況が飲み込めず反応が遅れた親友の口を手で塞ぎ、ポケットから出した小さなナイフを見せ付けた。 騒いだら殺すよ、みたいな声が聞こえた。 そのまま親友はナイフを視界に入れられたままズボンを脱がされていく。 無理に抑え込まれた親友の嗚咽と男の荒い息が聞こえる。 カチャカチャと男のベルトの金具が男の焦りを表すかのような音を鳴らす。 男はリュックから母親の化粧水みたいなボトル入りの透明な液を自分の完全に昂っているものにかけて塗り込む。 離した手についた液は名残惜しそうに糸を引いていた。 そして万全な状態のそれを親友の尻にあてがうと、必死に首を横に振って懇願している親友にまたキスをして一気に腰を押し込んだ。 いたい、いたいとこれまで我慢してきた分まで出しきろうとするかのような、変声もまだしていない子供特有の高くて耳を塞ぎたくなる泣き声混じりの悲痛な叫び声が聞こえる。 たすけて、と言い終わらない内に、喉が詰まるような音がして静かになった。 男のナイフが親友の首に深く沈んでいた。 ぐりっと回され抜かれたナイフの汚れが、本当に刺したということを嫌でも知らしめた。 脈に合わせて吹き出す血、汚い音で咳き込んだ親友の口や鼻も同じ色になる。 ビクビクと痙攣する親友の身体を男はこれでもかと貪るように腰を打ち付け続ける。 親友は自慰のための玩具かのような扱われ方で、腰を浮かせた状態でガクガクと好き勝手に揺さぶられる。 腰の動きが速くなるにつれ男の息が荒くなる。 と思いきや低い小さな呻き声が聞こえ、この場は一瞬、静寂に包まれた。 やがて、満足した男が鎮まったものをずるりと抜くときには親友は何も言わず、動かなくなっていた。 男が離れた状態で唯一動きを見せていたのは親友の尻からこぽっと小さく小気味良い音をたてて流れ出た、汚物と血が混じる白く濁った液体だけ。 男は綺麗に自分の身支度を整えると、俺と親友を置いて小屋から出ていった。 俺は恐怖の余韻で尚動けず、気付けば日が暮れかけていた。 その後どうやって、どんな気持ちで帰路についたかよく覚えていないが、暗くなり始めた頃に玄関に入ると母親は電話をしていた。 相手は親友の親らしい。 門限なのに帰ってこないという。 俺は母親に何か知らないかと聞かれた。 俺は、答えた 俺は言った 俺は 俺 俺が 俺は 「え?かくれんぼしてて、全然探しに来ねぇから先に帰ったと思ってた…」 当然、親友はあの倉庫で見付かった。 親友の親の叫ぶような泣き声が聞こえた。 捜索に混ざってた俺は倉庫の前に来ると母親に前面を覆うように抱き締められて見れないようにされた。 それから、どうもあの男が忘れられなかった。 事情聴衆の警察のお兄さんを見て恐怖を感じたのを皮切りに、慰めてくる担任も怖くなり、通学路が重なる中学生に怯え、父親に近寄れなくなっていた。 年上の男性が駄目になっていた。 俺は、今までの自分では考えもしなかった一目惚れの相手……恋人に過去を事細かに話してみた。 「……すみません、急にこんな重い話して…」 理由は自分でもはっきりとは分からなかった。 どうしても聞いて欲しくなった。 どうしても言いたくなった。 「今まで、誰にも言えなかったんです。…俺が、彼奴を殺したようなもんだから………っ」 途中から涙が溢れてきた。 あれから10年、大学生になってもしまいこんでいた懺悔。 殺人鬼だと恋人に捨てられても構わない。 とにかく今までの全てを出したかった。 「…そう、辛かったね。でも良かった、君のことが知れて。 ………これから月に1度、一緒に○○公園に行こうよ。親友くんが安らかに成仏できるように謝って、お祈りして、お供えしよう?…どうかな?」 「………はい……っ」 嗚咽の隙間を縫ってやっと絞り出せた二音。 それを聞いた恋人は、精神的にも肉体的にも俺を包み込んだ。 柔らかい匂いと心臓の音が心地好い。 甘えるように、縋るように恋人を抱き締め返して泣いた。 「本当に、良かった」 安堵した声だった。
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