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手の鳴る方へ
おにさんこちら
てのなるほうへ
おにさんこちら
おにさんこちら
おいで
こっちだよ
ほら、こっち
こっちだってば
ねぇ
おいでよ
おにいちゃん
おねえちゃん
どこいくの
おいていかないで
もうひとりはいやなの
ここからでられないの
ずっとここにいて
おねがいだから
おねがい
「いかないで……」
「やっば、あれガチっしょ?」
目の前の男が走りながら問う。
「もぉ~~まじ無理ぃ~!何でここ来たのぉ!?」
『怖がる自分可愛い』と『素の自分』が混じった女の声がうるさい。
「お前が心スポ行こうとか言ったからだろ!」
走りながら声を出すのは酷く体力を使う。
息が苦しい。
彼女の声が聞こえない。
彼女が居ない。
濡れた地面で足を滑らせつつあの場所へと急いで戻る。
誰も俺の行動に気付いていないらしく、自分の身の安全だけを確保しようと必死になっている。
先程の場所までこんなに距離あったかと不安になる程、辿り着くまで長かった。
彼女は案外すぐに見付かった。
出入口の近くでずっと立っていた。
「おい、早く帰るぞ!」
彼女の肩を掴む。
少し揺れるだけで、動かない。
「…良かった……………ん……来てくれた………」
安堵した声。
彼女の声。
ただ、何かが________________
「よかった、おにいちゃんもきてくれた」
ぐりんと勢いよく回った彼女の頭部。
焦点の合わない瞳の片方と目が合う。
これは何だ。
形は明らかに彼女だ。
だが違う。
コレは何だ?
「うれしい、ずっといっしょだよ、おにいちゃん」
抱き付いてくる。
形のせいだろう。
何故か拒めない。
心地好さすら覚え始めている。
彼女の形をした何かに纏う黒い霧が漂い、俺はそれを少し吸ってしまった。
息を止めた筈なのに霧は俺の鼻から、口からずるずると入り込んでくる。
離れようにも動けなくなっていた。
「いっしょ、いっしょ、ずっといっしょ、おにいちゃんも、おねえちゃんも、さびしくない、うれしい、うれしいなぁ」
幼い口調で話す彼女の形をした何か。
きゃっきゃとはしゃぐ姿が何だか愛らしい。
毒されてる。
だが、
それでいいようにおもえる
「ちょっとぉ~……マジで行く気~…??」
「何だよ、嫌なら車の中で待ってろよな。一人で」
「はぁ~!?無理なんだけど!!」
「……ところで、ここはどんな場所なんだ?」
「ん?あぁ、虐待で殺された兄妹が出るらしい。何でも、此処に来たカップルが帰ってこなくなったらしいぞ」
「うぅ……怖いよぉ………」
あたらしいおにいちゃんとおねえちゃんがきた
かぞくがふえる
うれしい
うれしい
おにいちゃんもうれしいよね
おねえちゃんもうれしいよね
うれしい
うれしい
ごしょうたいしないとね
ぱちぱち
ぱちぱち
おにさんこちら
てのなるほうへ
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